私たちはみんな地球人 宇宙の未来はみんなの未来 世界天文年2009日本委員会の海部宣男委員長にインタビュー
 ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡で宇宙を眺めたのは1609年と言われています。その日から400年を記念した2009年は、「世界天文年2009(International Year of Astronomy 2009)」。天文学と科学に関する様々な行事が世界中で催される予定で、日本でも「世界天文年2009日本委員会」による楽しい企画が一年間を通じて展開されます。この日本委員会の委員長で、日本を代表する天文学者でもある海部宣男先生にお話をうかがいました。
 Q 世界天文年2009のスローガン、「THE UNIVERS:YOURS TO DISCOVER 宇宙…解き明かすのはあなた」に込められたメッセージは?
 A
ガリレオの観測は、望遠鏡による宇宙の探求の扉が開かれた瞬間です。彼は望遠鏡を発明したのではありませんが、オランダの眼鏡職人が発明したという話を聞いて試作を始め、工夫に工夫を重ねてほぼ満足できる30倍の望遠鏡を作り、1609年の11月にまず月を見たと言われています。水晶の球だと思われていた月に、地球と同じような山や谷を発見した時の彼の驚きを想像してみてください。木星の回りには月が4つも回っており、太陽には刻々と移動する黒い点が見え、天の川は無数の星の集まりでした。小さな望遠鏡が開いた世界は、とてつもなく大きいものだったのです。それからの400年は、望遠鏡の発達とともに人間が自分たちの宇宙を広げてきた歴史。いっぽうでは小さなものが見える顕微鏡も発明され、私たちは自然の持つ奥深さに驚き、どんどんと迫っていきました。2009年は、とくに子どもたちとその親たちに、宇宙や星や自然に親しみ、驚いたり不思議に感じたりという体験をたくさんしてもらう年にしたいのです。そして、宇宙の中での地球や人間の存在に思いを馳せてくれたら、なおうれしい。それが、スローガンに込めた願いです。


公式ロゴマーク(日本語版)

キャラクター「ガリレオくんと仲間たち」TM
 Q 世界天文年への参加国は135カ国(2008年12月現在)に上るとか?
 A
世界天文年2009は、IAU(国際天文学連合)が提案し、UNESCO(国連教育科学文化機関)と国連で決議された活動です。世界中の天文学者、アマチュア観測者、教育者らが連携し、一般のみなさんを巻き込んでいきたいと思っています。途上国では主に教育的なプログラムを実施しますが、日本や各国のスタッフが赴いてサポートもします。日本製の「君もガリレオ!望遠鏡」という安価でよくできた小型望遠鏡の組立てキットを広めて、アジアやアフリカの子どもたちにも星を見てもらう予定です。この望遠鏡は、倍率15倍のもので重さ500グラム、世界天文年のグループ特別価格が千円。倍率35倍だと二千円ですが土星の輪も見えます。いつでもどこでも簡単に組み立てられ、手軽に星空に近づけるので、日本の企画でも大活躍するでしょう。英語版のガイドブックも作りました。参加国がどんどん増え、135カ国にもなったことはうれしいのですが、アジアでは北朝鮮、カンボジア、ミャンマーなど、問題を抱えている国が参加に至っていない。とても残念ですね。
 Q 国際交流ともなる「アジアの星」とはどんなプロジェクトなのでしょう?
 A
日本でもそうですが、星にまつわる物語というとギリシア・ローマ神話ばかりが取り上げられがちです。でも、アジアにはアジアの星の物語がたくさんあります。「アジアの星の神話・伝説プロジェクト」(通称「アジアの星」)は、アジア諸国に伝わる星や月、天の川の神話伝説を各国で収集し、民俗学的見地も踏まえてまとめ、共同企画本を編集して各国で同時出版するというもの。日本、中国、韓国、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア……と、それぞれの国のストーリーを持ち寄って5月に日本で国際ワークショップを開きます。英語の元本を作って各国語に訳し、各国の画家の絵をいれて美しい絵本を作りたいのです。世界にアジアの文化を発信すると同時に、子どもも大人も絵本を楽しみ、プラネタリウムなどでもアジアの星の物語を伝えていってほしいです。絵本は2010年の出版を目指していますので、楽しみにしていてください。
 Q 海部先生が提唱していらっしゃる「伝統的七夕」とはなんですか?
 A
七夕はカレンダーの7月7日(ほとんど梅雨どきですね)ではなく、本来は旧暦でやるべきものなんです。今の8月の上弦の月のころですね。2009年なら8月26日です。江戸時代の日本ではこの日に一家総出で星を祭り、月と星と天の川を楽しんでいました。せっかくの星祭りですから、旧暦の七夕を「伝統的七夕」と名付けて、この日またはこの日に近い週末にライトダウンして星を見ようと、呼びかけてきました。沖縄の石垣島では「伝統的七夕・南の島の星まつり」として定着させ、毎年一万人が集まる星空観望会が開かれています。年に一度、5分でもいいからライトダウンできると都会でも星が見える機会になるのです。東京をはじめ日本の子どもたちは星を見られなくなりつつある。星どころか日の出や日没も知らない子が多い。「だって、太陽はいつの間にかビルの間に見えなくなっちゃうんだもん」と。星はどこでも見上げれば見えるもの。まずは、もういちど星空に気付き、見上げてほしいですね。


石垣島での星空観望会「伝統的七夕・南の島の星まつり」の様子
 Q テーマとされてきた東アジアでの交流の今後の計画は?
 A
日本、中国、韓国、台湾など、似た文化を共有する隣国なのに、お互いの頭越しに欧米とばかりつきあうのはさびしいことだとずっと思っていました。科学、天文学は平和な国際交流の手がかりでもありますし、東アジアの交流を深めることは私の長年のテーマです。1990年以来の東アジア天文学会議や、2005年に誕生した東アジア中核天文台連合では、天文学研究や装置などの技術開発、研究者の交換、交流といった様々な共同プロジェクトを推進しています。「アジアの星」もその流れで、世界天文年2009は、よいはずみとなるでしょう。
日本でも世界でも、星を嫌いという人はいないのではないでしょうか。天文は自然科学への触媒。2009年もこれからも、子どもたちに「星ってこんなにきれいなんだ。こんなにたくさんあるんだ」と感動してほしいです。地球上には多くの国があり、多くの人がいるわけですが、空に輝く星たちは私たちにとって等しい存在。子どもに星を見せるために、世界中の大人たちにももっと星を見上げ、自然と宇宙について思いを巡らせてくれたらと願っています。

海部宣男(かいふ・のりお)

1943年生。天文学者、放送大学教授。日本学術会議会員、世界天文年2009日本委員会委員長。1966年東京大学基礎科学科を卒業後天文学を志し、同大学院を経て同大助手・助教授、国立天文台教授、2000年から国立天文台台長。2006年任期満了退職、現在に至る。1997年から2003年国際天文学連合(IAU)副会長。野辺山の45m電波望遠鏡、ハワイの8.2mすばる望遠鏡の建設をリード。星間物質、星と惑星の形成を研究し、1987年度仁科記念賞、1998年度日本学士院賞を受賞。宇宙と人間の関わりを追い、科学の普及に力を注ぐ。『宇宙マンガシリーズ』『宇宙の謎はどこまで解けたか』『宇宙をうたう』『すばる望遠鏡
の宇宙』『天文歳時記』など一般向け著書多数。


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