昼食のカロリーダウン分を途上国支援に「TABLE FOR TWO」事務局長の小暮真久さんにインタビュー
 先進国の余剰食糧を途上国の食事に回せないか―。2006年、カナダのバンクーバーで飢餓と肥満についての会議が同時に行われていたことから、この世界の皮肉を何とか解決できないかと考えられた社会運動が「TABLE FOR TWO」です。日本のヤンググローバルリーダー(YGL)が旗揚げ役となったこの運動は、具体的には、社員食堂などでカロリーダウンしたメニューの売り上げの一部(1食当たり20円程度)を途上国の学校給食1食分として国連世界食糧計画(WFP)や、ミレニアムプロミスなどの学校給食プログラムへ寄付するというもの。今年に入ってからは、参加団体が急増し、現在50近くの団体で実施されています。今後は運動を世界にも広めたいと話す特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International理事で事務局長の小暮真久さんにインタビューしました。

TABLE FOR TWOの名前とロゴは、ユニクロのニューヨーク店舗を手がけた
アートディレクターのマーカス・キールステンさんによるものだそうです


 Q 先進国の肥満と途上国の飢餓や貧困を同時に解決することを目指したユニークな運動ですね。日本人のアイデアから始まったと聞きました。
 A
2年前、日本のヤンググローバルリーダー(※)が、カナダ・バンクーバーで開かれたYGLサミットのヘルスケアをテーマとするディスカッショングループに参加した際、半分は生活習慣病など肥満の増加、半分は飢餓や貧困についての話をしていたことから、この2つを同時に解決できないかと考えたことが始まりでした。中心となったのは東京大学准教授でNPO法人医療政策機構副代表の近藤正晃ジェームスさんやユニクロ執行役員の堂前宣夫さんなどです。アイデアは試行錯誤を経て、現在では730kcal前後の栄養バランスがとれたランチを社員食堂などのメニューに加えてもらう形で実施されています。昨年2月の伊藤忠商事を皮切りに日本IBM、ファミリーマート、NEC、横浜市、日本航空などの社員食堂で試験的に実施してもらいながら改善を重ねていきました。

※ヤンググローバルリーダー(YGL) スイスの民間経済研究機関「世界経済フォーラム(World Economic Forum)」が選んだ、将来国際的な活躍が期待される各国の若手リーダー(40 歳以下)の集まり。2020年までにより良い世界を構築することを目指し、国際問題に対して具体的にアクションを起こすための複数のグループを構成している。TABLE FOR TWOを考え出したメンバーは前出の近藤氏、堂前氏のほか、伊藤忠商事コーポレートカウンシルの社内弁護士である茅野みつる氏、衆議院議員の古川元久氏の4人。
 Q 現時点でどのくらいの団体が参加しているのですか?
 A
50近くです。中には大妻女子大学や外務省、参議院などのように教育機関や政府機関の参加もあるので団体数としているのですが、企業数で言えば35社くらいだと思います。年内に参加団体を100まで伸ばすことが目標ですね。寄付先は現在のところ、ウガンダ、ルワンダ、マラウイの3国です。国連世界食糧計画(WFP)やアフリカの貧困削減に取り組むNPOミレニアム・プロミス(本部・アメリカ、ジェフリー・サックス代表)と提携してプロジェクトを展開しています。6月末に第1回の報告レポートを出しますので(※取材日は6月5日)、来週から取材も兼ねて支援先のウガンダへ出かけてきます。続けていただくためにも、支援国の子どもたちの声なども集め、参加団体の皆さんに届けたいと思っています。

 
TABLE FOR TWOの寄付先であるウガンダの子どもたち
 Q 今年1月には10件台だった参加団体が、ここ半年近くで50団体近くにまで急増しています。なぜでしょう?
 A
今年度からメタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)に関する健診・指導を健康保険組合に義務づけた、いわゆる「メタボ健診」がスタートした影響が大きいと思います。成績の思わしくない健康保険組合に課されるペナルティーが、一定規模の企業ですと数億円にも上る場合もあるそうですから、「そんなことになってはたまらない」と4月前後に駆け込みで参加を申し出てきた企業も多かったですね。忙しい社員は運動をする時間もありませんから、メタボ社員に対する有効策といってもなかなか難しいのが実情のようです。全社員に向けた取り組みをやろうと考えたとき、お昼は誰もが食べますから、全社員に実践してもらうことが可能な唯一の時間帯なのですね。そんな理由もあって、TABLE FOR TWOに興味を持っていただいた団体が多かったのではないでしょうか。実際、社会貢献を絡めたTABLE FOR TWO のランチは売れ行きも良く、4月に始めた企業からは完売したという連絡も相次ぎました。導入したばかりのころは販売数が読めないので50食限定などと始めるのですが、30分で売り切れるほど人気のところもあるようで、私たちもとてもうれしく思っています。今年に入ってから各メディアへの掲載数も伸びているので、そのことも問い合わせの増加につながっていると思います。


参加企業でのTFTランチの様子(りそな銀行東京本社で)


人気のTFTランチ。野菜いっぱいトマトポトフです
 Q 今後、社員食堂以外で展開していく構想もあるようですね。
 A
社員食堂に限らず、TABLE FOR TWOは食事ができるところであれば、どこでも取り組める活動になっていると思います。例えば今、日本橋三越の「ミクニ」店舗でフレンチシェフとして知られる三國清三(きよみ)さんが手掛けた「黄色い幸せのランチボックス」を期間限定(~7月15日)で販売中です。これはTOKYO FMの番組とのタイアップで生まれたTABLE FOR TWOのスペシャルランチで、リスナーに呼びかけて集まったたくさんの「心に残る幸せな食卓の風景」に関するエピソードがメニューに反映されています。エピソードに共通していたのが、「懐かしいおふくろの味」的なものだったので、「懐かしさ」はこのランチボックスの大きなテーマとなっています。北海道出身の三國さんはご自身の子ども時代の思い出も取り込みながら、鶏もも肉のしょう油揚げザンギ風といった郷土料理を始め、彩りの良い季節野菜の含め煮やサラダも取り入れ、非常に栄養バランスのとれたおいしいヘルシーランチを作ってくださいました。ラジオ局の方はとてもPRが上手ですので、この企画では人の輪も広がりましたし、一般の人が参加していただける場所がようやくできたので、我々もとても喜んでいます。


TOKYO FMとのコラボレーション「HAPPY FOR TWO」のロゴ
 Q TABLE FOR TWO のユニークさはどんなところにあると思いますか。
A
企業からお金を預かって途上国の支援をする運動はきっと世界にたくさんあるのだろうと思いますが、TABLE FOR TWOが最もユニークな点は、従業員自らがお金を出しているところでしょう。企業主体の支援活動ですと、当該部署を中心にして一部の社員のみが参加する活動になってしまうこともあるようです。その点、TABLE FOR TWOではまず全社員に通知をしますので、運動のすそ野の広がりが(他の運動よりも)大きいのではないかと思っています。お昼ならば誰でも食べますし、少しでも意志があれば参加できます。日本人は人前でいいことをしたり、寄付をしたりすることを恥ずかしい、照れくさいと思う人も結構いるようですが、TABLE FOR TWOでは寄付額が昼食代に含まれていますので、そこがいいとおっしゃる方もいますね。体に良いランチを選ぶと自然に社会貢献ができるという敷居の低い仕組みが、特に日本では受け入れられやすいのかもしれません。
 Q アメリカに支部ができたそうですね。
A
NPO法人の名称をTABLE FOR TWO Internationalとしたのは、日本を本部とし、世界各国に運動を広めていきたいという思いが当初からあったからです。運動にかかわっているメンバーは皆、世界にこの運動を広めたいという構想を共有しています。今、ちょうどTABLE FOR TWO USAが設立されたばかりで、いずれはヨーロッパなどにも支部を立ち上げることを考えています。アメリカでは現在、学校児童への給食配布サービスを行うサンフランシスコの会社が参加を申し出てくださっていて、利用者のお母さん方が子どものランチをオンラインで注文する際にTABLE FOR TWOへの寄付かごも選べる仕組みを用意してくださいました。国によって文化や習慣が違いますから、TABLE FOR TWOの枠組みも今後の海外展開に伴い、新しい可能性が広がりそうで楽しみです。
 Q 食への関心が日に日に高まっていますね。
A
先日、ローマで食糧サミットも開かれていましたが、食が話題にならない日はないと言ってもいいくらいですよね。先進国では買った食糧の3分の1近くが捨てられているという報告もあります。世界には皆が食べていける十分な量の食べ物があるのですが、問題なのはその分配の仕方が偏っていることと言われていますよね。最近では世界の食糧事情やバランスのとれた食事について、子どもたちに分かりやすく説明する食育活動も少しずつ始めています。今も都内の小学校や新聞社の移動支局などにお声をかけていただいていますが、募集するとすぐにいっぱいになるほどの人気ですよ。この運動を通じて皆さんの意識がいい方向に変わり、家に戻っても食への関心が続くようになるといいなと思っています。

小暮真久(こぐれまさひさ)

1972年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、オーストラリアのスインバン工科大で修士号取得。学生時代の研究テーマは人工心臓。他大との共同研究や討論会、学術雑誌への投稿などを積極的に行う一方、社会貢献活動にも興味を持ち続ける。マッキンゼーアンドカンパニー勤務時の先輩社員がTABLE FOR TWOを着想したメンバーだったことから誘いを受け、昨年からTABLE FOR TWOのプロジェクトに参画。現在は同事務局長として米国支部の立ち上げや事業基盤確立の指揮をとっている。


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