NGOと著名人を広告でコラボレート 福井崇人さん(2025 PROJECT発起人)
多くの人に見てもらうには、多くのお金がかかるのが広告の常識。それでは、NGOなどのように広告にはあまりお金をかけることが出来ない組織が、最大限「伝わる」効果を引き出すためには、どうしたらよいのでしょうか。担当者が非常に頭を悩ませるところです。そこで、もともと環境・社会問題に関心のある著名人とコラボレートしたら、より波及力のある企画を展開していけるのでは、と立ち上がったのが2025(にいまるにいごう)PROJECTです。第1弾は、人気俳優の宮崎あおいさん・兄の将さんと、特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会とのコラボレートによるインド訪問の写真集でした。目標として掲げた2025年が持続可能な未来であるために今やるべきことは何か、地球が未完成のパズルだとしたら「たりないピース」は何か、プロジェクトを通してじっくり探していこうと呼びかけています。同プロデューサーの福井崇人さんにお話を伺いました。

Q 多忙なお仕事と平行して、ボランティアで数々の試みをされています。
A きっかけは1998年です。仕事のセットで使うため、木の下駄箱がある小学校を探していたら都内にはなくて、埼玉県のさいたま市立北浦和小学校に行き着きました。校長先生と仲良くなってから、小学校のために僕に出来ることはないかと考えて、「いじめ」や「死」などをテーマにしたポスターを作りました。広告ではなく、教材というかつて誰もやってないジャンルでの実験でしたね。僕がやりたかったのは、プロのクリエーターが作ったものを見て、子どもたちがどれだけの刺激を受けてモノを作れるかでした。5年生に課題を出して、画用紙に貼ってもいいし、描いてもいいし、何でもいいってことにしたら、握手した手を1回破いてセロテープで貼り付けたり、笑うって言葉を連呼させたり、絵をはみ出させたり、自由に楽しく表現してくれて、子どもたちは、ちゃんと感じてくれていた。制作費用はすべて持ち出しでやらせて頂きました。結構やっていて面白くて、気が付いたら朝だったりしました。ニューヨークADCやブルノ国際グラフィックデザインビエンナーレなど海外の賞を頂いて、手ごたえ感じて、自分の中で何かが見えたんですよ。その経験を土台に、今に至っている感じですね。

Q 特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンさんの広告では賞を取るなど、注目を集めました。
A
もともとは新聞広告からのお付き合いでした。僕が寄付をして、郵便振込の通信欄に広告についての意見をちょっと書いたんですよ。そうしたら、次の日に電話がかかってきて、「来てください」と。怒られるのかなと思ったら、「ご意見頂けますか」と。担当の方は、広告のノウハウについて悩んでいらしたので、僕はプロの視点から2時間近くお話をしました。「じゃあ、アフリカに古着を送るキャンペーンのポスターをやってください」という話になって、僕が3年間やることになりました。予算は限られていて印刷には1色しか使えない。貼る場所も団体が持っているスペースをお借りするしかない。でも、目立たなくてはいけなくて、表現勝負で乗り切りました。作ったのは、両面テープをはがして、そこに古着を貼ってくださいというポスターです(写真参照)。見る人に貼ってもらってはじめて完成する未完成なポスターですね。

ニューヨークTDC賞を受賞したポスター

翌年は、キャンペーンについてのチラシが全部ミシン目でつながっていて、はがしていくと下の絵が見えてくるポスターを作りました。 それだけでは足りないと思って、僕の母校である美術大学の学生たちにも参加してもらいました。 「タンザニアの難民キャンプにきれいな服を送ろう」の言葉だけ決めさせてもらって、服は皆で集めて、好きな絵描いたり、文字を書いたり、なんでもいいってことにしたんですね。 設置場所についても、営業は全部学生にやってもらって、街の商店街などに貼りました。 公立の教育機関が動くことで、プレスがこぞって取り上げてくれたのは相乗効果でしたね。ほとんどの全国紙が取り上げてくれました。広告を打つお金はなかったのですけれども、広告換算すれば、すごい金額になったでしょうね。

 
そして、3年目がこれです(写真参照)。 色がつきました(笑)。 古着の形をした鳥を渡り鳥に見立てたセンチメンタルなもので、これで広告電通賞を取りました。 3年間で合計100万着くらい集まって、スタッフとボランティアが総動員で対応することになりました。
Q
NGOとのお仕事で印象に残っているものはありますか?
A
僕が人生をかけたと言っても過言でないのが、グリーンピース・ジャパンさんがやったイラク攻撃反対のピースパレード(2003年3月)ですね。全国紙で広告を打つという話が一両日で決まって、そのスピード決定にもビックリしました。デモパレードって、日本では5000人でも、例えばローマでは100万人、ニューヨーク38万人、パリで20万人とか聞きますよね。欧米での参加人数が日本とけた違いなのはなぜだろうと思ってやってみたくなりました。人を集めるということで数が見えるじゃないですか。でも、日本でやるには白黒はっきりと言うよりも共感性を出さないとダメだと思って、デモの言葉を一切使わず、「ピースパレード」としました。NO WARの文字を雲のようなかわいい書体にして、自分で色を塗ってもらったものをプラカードにしてもらおうと、作り方もイラスト入りで丁寧に描きました。そうしたら当日、4万人が日比谷公園に集まりました。僕は現場にいましたが、目の前で見て鳥肌がたったというか、効果の大きさには本当にビックリしましたね。お話があったとき、僕は一会社員としての立場を考えて、匿名でボランティアでこの仕事を請けましたし、いろいろな影響を考えると覚悟が必要なことも分かっていました。きっと10年後、20年後、30年後の歴史が評価してくれる。過去の歴史ってみんなそうですから、やるべきだなと引き受けたわけです。その結果、この作品は広告電通賞を受賞して、スピーチをする機会もたくさん頂きました。

Q 「100万人のキャンドルナイト」のポスターには、女優の宮崎あおいさんを起用しています。
A
2年目にご協力頂きました。この風景は、東京タワーから撮ったのですが、カメラマンの永田陽一さんも、ロケ地である東京タワーの運営会社も、快く協力してくれました。コピーは1年目と同じく「でんきを消して、スローな夜を。」です。宮崎あおいさんが出てくれるかもしれない、という話を聞き、妻が大ファンだったこともあって、すぐにオファーしてもらいました。あおいさんがこちらの主旨に賛同してくださって、ほとんどボランティアで出演してくださったのは、とてもラッキーでした。あおいさんにお願いしたかった理由はたくさんありました。彼女の事務所はこだわりがすごくあるんです。CMでもテレビでも、何でもかんでも出るわけでなく、意志を持って仕事を選んで出ていらっしゃる。そういう人は飽きられないし、"消費"されない。さらに、理屈だけでなく、あおいさんの出演している映画を見て、肌からしてもう、普通でない女優さんだと確信していました。

Q 2025 PROJECT 001も、宮崎あおいさんとのお仕事ですね。
A 2025 PROJECTで顧問をやって頂いている東京大学の山本良一先生は、ハリウッドでいう「エコ・セレブ」(環境問題などに関心を持ち、エコを意識したライフスタイルを実践している著名人。ブラッド・ピットやアンジェリーナ・ジョリー、レオナルド・ディカプリオなどがそう呼ばれる)の影響力は強いから、そういう人が日本にいないのかとおっしゃるんですね。先生は、行政や企業主催の研究会などに多く参加されていますが、どうも生活者が動かない、と。そこで、タレントの影響力は大きいのではないかというお話になったわけです。僕のように広告代理店で働いている人間だったら、その辺りを調整出来るかもしれないと考えていたんですね。そんなとき、国際協力NGOのシャプラニールさんから広告のお話を頂きました。シャプラニールさんは朝日社会福祉賞を受賞される(2005年1月)など、歴史ある非常にしっかりした団体ですので、そういう団体と著名人とをうまく結びつければ、それなりのアウトプットが出来るのでは、と写真集『たりないピース』を作りました。 本であれば、購入者が読んで表面的でないディープなところで感じてくれる。一方で、NGOの活動もしっかりした女優さんを通して、ウソっぽくなく、リアリティーがあるものに映るだろうと考えました。

Q 2025 PROJECTは、具体的な近未来をイメージすることで、今やることが見えてくるという考え方ですね。
A スウェーデンへ視察に行ったとき、スウェーデン環境省が「2021に持続可能な社会を実現するためには、今何をするべきか」という計画をまとめていることを知って、インスパイアされたのがきっかけです。具体的な年を決め、そこから今出来ることを考えるという、さすが持っていき方がすごいなと感心しました。実行委員会の名称は「たりないピース」でも良かったのですが、2025年と目標設定をする方が、もうちょっと大きいことが出来るのではないかと考えました。言葉のアウトプットとしては、たりないピースの方が強いと思うのですが、たりないピース実行委員会より、2025 PROJECTの方が具体的かなと。それに、数字なら“消費”されないですし。ずいぶん悩みましたが。

Q 今後のプロジェクトは構想など、いろいろあるのでしょうか?
A いろいろなお話は頂いていますが、土台作りはしっかりしないといけないので、時間はかかりますね。でも、宮崎さんにかんしては、今後20年近く、ずっと成長を追っていこう、そうしたいなと思っていますね。「北の国から」の純君ではありませんが。あとは、どんどん著名人の輪を広げていきたい。彼らと一緒にどれだけカッコよく見せられるか。それと、今後の一番の課題は資金作りなので、売れる商品を作ることですね。この地味なテーマで売れる商品を作るのは難しいですけれど(笑)。




福井崇人・ふくいたかし
1967年兵庫県尼崎市生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、広告代理店に入社、アートディレクターを務めている。環境省「環の国くらし会議」分科会メンバー。今年、朝日新聞社「ジャーナリスト宣言キャンペーン」のコマーシャルフィルムでADC賞(東京アートディレクターズクラブ)受賞。


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