全ての子どもが望まれて生まれ、すこやかに育つ社会に。池上清子さん(国連人口基金(UNFPA)東京事務所・所長)
7月11日は「世界人口デー」です。これは1987年7月11日、世界の人口が50億人に達したのを記念して、人口問題への認識を深めることを目的に国連が定めました。それから約20年、世界の人口は65億人を突破しました。その一方で、日本では合計特殊出生率※が1.25人となり、その記事がつい先日の新聞の一面を飾りました。今回は、そうした人口問題に取り組んでいる「国連人口基金東京事務所」の所長として活躍されている池上清子さんに、世界の人口問題を取り巻く現状や取り組み、ご自身が人口問題に目を向けることになったきっかけ等を伺いました。

Q 7月11日は世界人口デーです。まずは世界の人口問題を取り巻く現状から教えてください。
A 世界の人口は現在、1年間に約7600万人増えているとされています。これはエチオピアの人口にほぼ匹敵する数で、先日には推計人口が65億人を突破しました。この人口増がどこで起こっているかというと、その96%は開発途上国で増えています。このことは、189カ国の国連加盟国が2000年に合意したミレニアム開発目標を達成する上での大きな負荷になっています。つまり、開発途上国で人口が増えるということは、貧困層の人口が増えるということでもあるのです。一方、日本では、昨年末から人口減少が始まったことや、先月には、合計特殊出生率が1.25になったことを新聞各紙が大きく報じましたよね。現状の人口を維持していくには、2.08が必要とされていることから、このままでは日本は急激な人口減少社会になることが予想されます。これらがマクロの視点から見た人口問題です。

Q ミクロの視点では、どのような人口問題があるのですか。
A
©UNFPA Tokyo Office
日本では高齢社会に向かっていますが、世界的に見ると半分は25歳以下の人です。これから結婚して家庭を築き、子どもを作ることが予測されますよね。私が世界50カ国くらいの開発途上国を訪問して、こうした若い人に何人くらい子どもがほしいかと聞くと、だいたい3人~4人という答えが返ってきます。日本では希望子ども数は2.6人くらいですから、少し多いくらいですね。ところが、途上国では実際にはもっとたくさんの子どもが産まれている。つまり、日本のように産みたくても産めない状況がある一方で、途上国のように希望する以上に産まれてしまうという問題もあるわけです。子どもを作るかどうか、作るならばいつ、何人かを自由に主体的に決められるのが望ましい状態ですよね。それを私達は「リプロダクティブ・へルス(性と生殖に関する健康)※」と呼んでいます。
Q こうした世界の人口問題に対して、国連人口基金ではどのような取り組みをされているのですか。
A
©UNFPA Tokyo Office
国連人口基金のロゴを見てください。国連の機関としては珍しくオレンジを使っているのですが、これは若さを表しており、小さな8つの点は世代や政治体制・文化・宗教の違いなどの多様性や世代から世代へと受け継がれていく命の営みを表しています。最終的には、個人が希望通りに子どもを産める社会、ひいては多様性を大切にしながら、一人ひとりの生き方が保障される社会を実現するためのグローバル・パートナーシップを確立する取り組みを行っています。例えば、イランはイスラム教の国ですよね。イスラム教の経典であるコーランでは、家族計画をしてはいけないと書かれているわけではないのですが、社会通念として大家族が幸せであるとされています。そこで、宗教的に指導者の立場にあるイマームと協力して、出産間隔をあけて母親の健康が家族の健康にとって大切であり、コーランも家族計画に反対していないということを伝える啓発活動を行いました。結果、現在ではイランの家族計画の実行率は、日本と変わらないくらいになっています。

Q そもそも池上所長が、人口問題に目を向けるようになったのはどんなきっかけからですか。
A 人口問題は、ある意味、貧困問題の基本なのです。私の場合は、ニューヨークの国連本部で仕事をしていた時に娘を出産したのですが、出産前は医師から「問題なく自然分娩ですね」と言われていました。ところが、いざ出産となると、なかなか産まれてこない。そこで、レントゲンを撮ってみたところ、赤ちゃんの頭が大き過ぎて自然分娩は難しいことがわかりました。急きょ帝王切開に切り替え、無事産まれたのですが、もしこれがアフリカの小さな村でのことだったら、母子ともに危険だったかもしれません。産む場所によって命が助かったり助からなかったりするのは、おかしいと思いませんか。そんな経験をしたこともあって、もっと現場を見たいと思い、NGO活動に参加することにしました。また、女性解放運動に取り組む加藤シヅエさんの本にも感化され、よりいっそう国際協力や人口問題に目を向けるようになりました。
Q 人口問題に取り組む上で、女性であるからこそ理解できたり解決できたことはありますか。
A 女性であるからというわけではありませんが、自分にも子どもがいることで、現場のお母さんとすぐ打ち解けられるという面はありますね。それと、私も振り返ってみると、一番ほしいと思ったときに産んだわけではなかったので、反省も込めて若い人たちには人生設計をしっかりしてほしい。HIVの感染予防の問題や望まない妊娠をしないようにすることもその一環です。自分が主体的に生きるためには、教育や政治的な参加も必要だろうし法律のことも知っていなければいけない。一番大切なのは、自分に自信を持ち、自分を大切にできるということ。誰でもみんないいところを持っているので、それが認められる人生を送ることができ、自分たちもその長所を誇りにできるようになってほしい。そして、自分を大切にすることは相手を大切にすることであり、周囲の人や少し離れている途上国の人のことにも目を向けてほしいと思います。

<注>
※合計特殊出生率
1人の女性が生涯に産む子どもの平均数。15歳から49歳の年齢階級別に女性1人あたりの平均的出産数を算出。それぞれの女性が出産可能年齢の間において、平均的出産率で子どもを産むと仮定した場合の、女性の生涯における子ども数として計算。

※リプロダクティブ・へルス(性と生殖に関する健康)
人間が安全で満ち足りた性生活を営み、子どもをいつ、何人、誰と、どこで、妊娠・出産するのかを自由に決められ、性別・年齢にかかわらず、自分の性と生殖について身体的・精神的・社会的に満足できる状態であること。性と生殖に関する健康。今日の人口問題対策の基本理念とされています。



池上清子・いけがみきよこ
国際基督教大学大学院で行政学修士号を取得後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)定住促進担当、国連本部人事局行政官、家族計画国際協力財団(JOICFP)調査計画部長、同企画開発部長、国際家族計画連盟(IPPF)ロンドン資金調達担当官などを経て、2002年9月より国連人口基金東京事務所長。開発途上国での女性の健康、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、人口、HIV/エイズなど諸問題に取り組む。外務大臣諮問機関第2次ODA改革懇談会メンバー、内閣官房長官諮問機関アフガニスタンの女性支援に関する懇談会メンバーなどを歴任。(HPより)
■国連人口基金 東京事務所
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-53-70 UNハウス(国連大学ビル)7F
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