イラク戦争から日常生活まで伝える「日本語で読む中東メディア」東京外国語大学が配信
相次ぐテロ事件やレバノンでの戦闘、イランの核問題などで中東情勢への関心が高まっています。日本では情報が少ない中東の「いま」を届ける東京外国語大学のウェブ上マガジン「日本語で読む中東メディア」が好評です。翻訳担当はアラビア語、ペルシア語、トルコ語を学ぶ学部生や大学院生たち。テロや戦争のイメージが強い中東の姿を多角的に伝えようと、トルコ、エジプト、レバノン、イラン、イラクの各国で発行されている新聞記事を毎日数本ずつピックアップして翻訳しています。話題は時事ニュースから文化・スポーツ・天候まで硬軟さまざま。中東ジャーナリストの視点が分かる興味深い内容となっています。

「日本語で読む中東メディア」のパンプレット

「ミリイェト」紙(トルコ)の記事(上)と翻訳記事(下)

■学生の翻訳に現地特派員も感謝
 東京外国語大学(府中市)が昨年度から始めた「日本語で読む中東メディア」。翻訳は、同大学大学院地域文化研究科の大学院生、外国語学部南・西アジア課程アラビア語専攻、ペルシア語専攻、トルコ語専攻の学生、卒業生など70人弱が担当しています。取り組みは、文部科学省から5年間の助成を受けた「中東イスラーム研究教育プロジェクト事業」の一環。記事を抜粋しているのは、翻訳許可を得たアラビア語の「アハラーム」(発行国・エジプト)、「ナハール」(レバノン)、「サバーフ・ジャディード」(イラク)、ペルシア語の「シャルグ」(現在は休刊中)「ハムシャフリー」(いずれもイラン)、トルコ語の「ミリイェト」「ヒュリイェト」「ラディカル」「イェニ・シャファック」(すべてトルコ)の計9紙です。

 記事は専門家の校閲を受けた後、毎日3、4本ずつホームページ上にアップされます。興味を持った見出しをクリックすればそのまま読めますが、関心あるテーマが決まっている場合は、ページ右枠の検索機能を使って言語別、国別、新聞別、「イランの核問題」や「レバノン問題」などのジャンル別に情報収集することもできます。また、希望者には週2回、更新された10~20本の記事の見出しをまとめてメールマガジンとして送るサービス(無料)もしています。現在のメールマガジン登録者(675人)は学生や一般人を中心に、中東を専門とする研究者、ジャーナリスト、現地の駐在員までさまざま。文章は幅広い読者に対応できるよう極力分かりやすく、一方で専門家にとっても読みごたえがあるよう熟考されています。

 反応は良く、現地の特派員から「(現地語では理解しづらかった)騒動の背景がよく分かった」と感謝のメールが届いたこともあるそうです。プロジェクト責任者の林佳世子同大教授は、「学生たちは中東の言語を学んでも、なかなかその能力を生かした仕事につくのは難しいのが現状。卒業後は現地語の能力を生かした仕事を発掘してほしいし、社会に役立つ仕事をしてほしい。プロジェクトにはそうした願いを込めています」と話しています。


■中東の日常生活も実感してほしい
 記事は主に「日本人が関心を持っている話題」「日本では報道されないような日常の話題」の2点から選択されています。「政治や紛争など、日本人が関心を持っているテーマを現地の視点でどう言っているかは不可欠ですが、一方で天候や地震、ほほ笑ましい話題、スポーツなど普通の暮らしも伝えられるよう意識しています。報道はとかく問題のある部分ばかり強調する傾向がありますが、中東のまちにも雨や雪は降るし、人々は日々買い物をしたり、学校に通ったり、自分たちと同じような日常生活を送っている。そのことを実感してもらいたい」と林教授は強調しています。

 例えば最近では、トルコのサッカーチーム監督に就任したジーコの動向、イスラミック・ヒーローを描いた初のマンガ本の話題、信仰を理由にドイツで水泳の授業を受けられないムスリムの少女たちの騒動について、また、イラン人作家がなぜノーベル文学賞を受賞できないかを考察したユニークな記事も、政治や戦争といった大きなニュースの中に散りばめられています。

 記事を抜粋する紙面は、伝統ある有力紙から大衆に人気のタブロイド紙まで、政治的立場も保守から改革派まで、バランスを考えて選択されています。国によっては、メディアの独立性が危うく、行間を読むような新聞もあり、イランの改革派系有力紙「シャルグ」のように突然政府の圧力で発行停止になる新聞もあります。不測の事態は他の新聞でもあり得るため、事務局では契約紙を増やすための翻訳許可も申請中です。

 それでも、インターネットの普及によって中東の情報公開は格段に進んだと言います。「紙媒体が主だったころは、船便で新聞が届くのに1カ月近くかかったこともありました。それに比べると今はネットを通じた情報網が国境を超えて一斉に広がるようになり、政府もネットの力を無視できなくなっています。状況はずいぶん変わりました」と林教授。今回のプロジェクトもネット情報の充実があってこそ実現したものですが、学生にとって語学力のスキルアップになるばかりでなく、読者にとっても言語の壁を越え、中東ジャーナリストの視点に触れる貴重な機会となることでしょう。

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