2020年11月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

社会福祉法人 日本国際社会事業団(ISSJ)

~ 誰もが自分らしく生きられる社会を目指して、一人ひとりに寄り添う支援を ~

今月のクローズアップは、社会福祉法人 日本国際社会事業団(ISSJ)をご紹介します。ISSJは、人々が国境を越えることで生じるさまざまな福祉分野の相談に応じている団体です。世界140カ国にネットワークを持つ国際NGO、International Social Service(ISS)の日本支部として、ISSの各国支部のほか、大使館、児童福祉・地域福祉関係機関、病院、学校などと連携しながら、相談者一人ひとりに寄り添う支援を行っています。ISSJが目指しているのは、生まれ育った環境や国籍などによって社会の中で弱い立場に置かれがちな人々が、自分らしく生きるチャンスをつかむことができる社会を実現すること。常務理事の石川美絵子さんとソーシャルワーカーの榎本裕子さんに、ISSJの活動についてお話をうかがいました。

やさしいコさいミュニケーション協会
石川さん(前列中央)と榎本さん(前列左)。
ともにISSJを支えるスタッフの皆さんと。

ISSJ設立の経緯をお聞かせください。

ISSJ
ISSJを通じて養子縁組した養子のルーツ探しを支援。
家族とともにドイツから来日して実母との再会を果たしました。
ISSJ

石川さん

第二次世界大戦後の1952年、駐留軍兵士と日本人女性の間に生まれた子どもを、主にアメリカの家庭に養子縁組するために発足した日米孤児救済合同委員会がISSJの前身です。同委員会は1955年に子どもの福祉のために活動する国際NGO、International Social Service(ISS)(本部:ジュネーブ)の日本支部となり国境を越える福祉援助活動を本格始動、1959年に社会福祉法人日本国際社会事業団(ISSJ)として厚生省に認可され今に至ります。1970年代後半にはUNHCRの委託によりインドシナ難民の援助活動をスタート、1980年代に入ると急増したニューカマーが抱えるさまざまな問題について支援を行うなど、社会の移り変わりに伴うニーズの変化に応じながら社会福祉の現場に携わり続けてきました。現在ISSJで相談に対応しているのは、国際福祉の専門知識を持つソーシャルワーカーとフィリピン、タイ出身のスタッフたちです。ISS各国支部のほか、弁護士、大使館、児童相談所、保健センター、病院、学校、エスニックコミュニティなどと連携しながら、相談者一人ひとりに寄り添う支援を行っています。

現在の活動内容を教えてください。

石川さん

「養子縁組支援」と「外国につながる子どもと家族の支援」が主な事業です。ISSJの活動の原点でもある養子縁組の支援では、日本の乳児院や児童養護施設で暮らす子どもを日本人家庭もしくは日本在住の外国人家庭に迎え入れてもらう支援をするほか、養子となった人からのルーツ探しの相談にも対応しています。また、外国につながる子どもと家族の支援では、日本で暮らす難民や移住者が地域の一員として安心して暮らせるよう生活相談・家庭訪問・カウンセリングなどを行うほか、無国籍状態にある子どもの国籍を取得するための支援や、国際離婚・別居に至った両親と子どもの面会交流を実現するための支援も行っています。

活動において特に苦労されている点はありますか。

石川さん

ISSJに寄せられる相談は年間6000回以上(昨年度実績)になりますが、相談者の背景が多様化し、相談の内容も複雑かつ複合的になってきています。これまでは「移住者の生活支援」「国籍取得の支援」「養子縁組の支援」など、相談の内容に応じてその分野を得意とするソーシャルワーカーが対応していたのですが、最近はひとりの相談者に対して複数のワーカーが知見を共有しながら、包括的な支援をしていくことが必要になっています。

榎本さん

たとえば配偶者のいない外国籍の女性から妊娠の相談を受けたケースでは、安全で無事な出産を確保することを最優先にしつつ、次のステップも考えていかなければなりません。生まれた子どもは母親が日本で育てるのか、あるいは母国に戻って育てるのか。日本もしくは母国に子育てを担ってくれる親類縁者はいるのか。養子縁組を視野に入れる必要はあるのか。子どもの国籍はどうなるのか。相談者の母国の法律や慣習はどうなっているのか。相談者に寄り添う支援をするためには、調べなければならないこと、やらなければならないことがたくさんあります。

ISSJ
事務所に来訪した女性の相談にのるISSJの
ソーシャルワーカー
ISSJ

子どもの国籍取得の支援をされていますが、なぜ無国籍状態になるのでしょか。

ISSJ
外国につながる家族へのアウトリーチとしてコミュニティを
訪問し、相談支援事業のニーズを聞き取ります。
ISSJ

榎本さん

日本人の配偶者をもたない外国籍の女性が日本で出産した場合、産まれた子どもは日本の国籍を取得することができません。そのため在日外国公館に子どもの出生を届け出て母親の国の国籍を取得しなければ、子どもは無国籍状態となってしまいます。ところが日本の役所に出生届を提出すると、子どもの在留カードや住民票に母親の国の国籍がそのまま記載されるため、パスポートの申請や就職活動、結婚などにあたり、はじめて自分に国籍がないことに気づくといったことが起こり得るのです。

石川さん

国籍がないことの困難というのはなかなかわかりづらいかもしれませんが、当事者にしてみれば、当然保障されるべき権利を喪失している状態であり、とても大きな問題です。ISSJでは、この問題にくわしい弁護士と相談しながら国籍取得の手続きを進めています。当事者からの相談に加え、生活保護やDV被害者の支援にあたる役所や、児童相談所・児童養護施設などの職員が無国籍であることに気づいて問い合わせてくるケースも増えています。

新型コロナウイルスの影響を受けた外国人への緊急支援について教えてください。

石川さん

感染拡大が深刻化した4月上旬から「食べものに困っている」という相談が相次ぐようになったため、助成金を確保して難民のコミュニティに野菜とお米のパックを送る食糧支援を実施しました。「これまで助けてくれていた友人たちも生活が苦しくなって、もう頼ることができない」という声を数多く聞き、エスニックコミュニティ内の相互扶助のシステムがコロナ禍で機能しなくなっていることを実感しました。また、3月からの一斉休校の影響で家庭学習の比重が高まったため、「日本語で勉強を見てあげられない」「家にIT環境が整っていない」といった悩みを抱える難民や難民申請者の子どもたちへの教育支援もスタートさせました。基金や企業様の協力を得て、必要に応じてWiFiルーターやPCの貸出を行うとともに、ボランティアが子どもたちのオンライン学習を支援しています。

榎本さん

コロナとの関連は不明ですが、外国籍の女性からの妊娠・出産に関する相談も今年の春先から増えました。緊急事態宣言で世の中の動きが止まり、相談できる先がなかったのかもしれません。病院の確保、出産の準備、出産後の各種届出や育児を孤立せずに安心して行えるよう寄り添いながら支援しています。

ISSJ
コロナ禍で影響を受けた難民コミュニティに食糧支援を実施。
食事に制約のあるムスリムの人々に野菜と米を配布しました。
ISSJ

今後の活動の展開について教えてください。

ISSJ
11月から2月まで、月1回開催されるオンラインセミナー」の
チラシ。詳細についてはISSJの公式サイトをご確認ください。
ISSJ

榎本さん

ISSJでは養子縁組後の家族に対する支援を充実させていきたいと考えており、まもなく専用のウェブサイトを公開する予定です。ISSJでは養子や養親からのルーツ探しの相談に対応していますが、ISSJ以外の団体を通して養子になった人については、十分な記録がなく実の親にたどりつけないケースも少なくありません。養子の出自を知る権利を守るためにも、養子縁組後の支援をきちんと手法として確立する必要があると考えています。

石川さん

11月からは、「外国にルーツのある家族と子どもへの相談支援オンラインセミナー」を開催する予定です。ゲストに専門家を招き、外国籍住民への相談に必要な基礎知識や最近増えている相談事例を紹介しながら話を進めていきます。4回連続のセミナーですが1回ずつお申込みいただくことも可能ですので、外国籍住民の相談支援にあたる関係機関などの方や、外国につながる家族や子どもの問題に関心のある方はぜひご参加ください。

東京都国際交流委員会

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