2020年10月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

NPO多言語多読 TADOKU Supporters

~ やさしい絵本から始める外国語学習法、「多読」を広める ~

今月のクローズアップは、NPO多言語多読 TADOKU Supportersをご紹介します。「多読」とは、単語の暗記や文法の勉強をしなくても、誰でも楽しく外国語を身につけることができる学習法です。ポイントは、その人がおもしろいと思える読みものを選んで、とにかくたくさんのことばをインプットすること。やさしい絵本から始め、少しずつ文字の多い本へと読書の幅を広げていくと、やがてペーパーバックが楽しめるまでになるそうです。NPO多言語多読では、日本人に向けた「英語多読講座」と、外国人に向けた「日本語多読クラス」を開催するほか、多読の普及に向けた様々な活動を行っています。活動の詳細や多読の実践方法について、理事長の粟野真紀子さんにお話をうかがいました。

やさしいコさいミュニケーション協会
理事長 粟野真紀子氏

「多読」の普及を目指す団体を設立された経緯をお聞かせください。

多言語多読
前理事長の酒井氏(左)。
日本の英語教育への疑問から、多読の指導を始めました。
多言語多読

粟野さん

そもそも多読は、英語の学習法のひとつとして海外で始まったものですが、2000年代はじめに日本の英語教育に多読を取り入れることを提唱したのが、私の連れ合いであり、後にNPO多言語多読の理事長となった酒井邦秀です。酒井は英語教師として、難しい文章を辞書を使って訳しながら読み進めるという読解教育の在り方に疑問を抱いていたのですが、私もまた、日本語教師として、同様の問題意識を持っていました。そこで、酒井が勤務していた大学で多読に取り組み始めたのに少し遅れる形で、2002年に同僚の日本語教師たちと任意団体「日本語多読研究会」を設立し、日本語多読の普及活動を始めたのです。2006年には、日本語多読専用図書の出版に向けて同団体をNPO法人化、さらに2012年、大学を退官した酒井の英語多読普及活動と合流し、新たに「NPO多言語多読 TADOKU Supporters」という名称で活動を展開していくことになりました。

現在の活動内容を教えてください。

粟野さん

活動には三本の柱があります。まずは、日本語学習者向けの多読専用図書の制作です。ふりがな・挿絵・朗読音声がついていて、やさしいレベルから順に読み進めることができる本を作成・出版しています。英語多読用の読みものはたくさんありますが、日本語の多読に使用するレベル別読みものは自分たちでつくるしかないのです。そして次が、多読を実践する場の提供です。定期的に開催しているのは、日本人向けの「英語多読講座」と、外国人向けの「日本語多読クラス」。実は外国人向けにはもうひとつ、「しんじゅく多文化共生プラザ」で開催している「にほんごの本を読む会」もあります。長らくコロナ禍でお休みとなっていましたが、10月3日から再開する予定です。またこのほかに、スペイン語韓国語の多読を楽しむ会も行っています。そして最後が、多読の輪を広げていくための活動で、講演会、図書館でのワークショップ、英語多読の無料体験会などのほか、ウェブサイトを通して多読にまつわる様々な情報を発信しています。

多言語多読
NPO多言語多読執筆・監修の
「レベル別日本語多読ライブラリー」(アスク出版)と
「にほんご多読ブックス」(大修館書店)
多言語多読

多読はどのように実践していったらよいのでしょうか。

多言語多読
多読の第一歩は文字のない絵本から。
絵を見て何が起きているかを想像します。
多言語多読

粟野さん

多読はまず、文字のない絵本を使って、絵を見て物語を理解できるようになることから始めます。それから、徐々に1ページに1語だけある本、2語ある本、3語ある本、4語ある本…というように、文字の多い絵本へと移ります。そして、朗読音声を聞きながら、「この絵の状況をことばにすると、こう言うんだな」、「そのことばを文字にすると、こう表すんだな」というようにして、絵や音とともに「やさしいことば」をたっぷりと吸収していきます。こうして、少しずつレベルを上げながらたくさんの読みものに触れていくと、次第に絵がなくても読み進められるようになっていき、児童書やペーパーバックを楽しめるようになる人もでてきます。また多読では、ことばといっしょに、それを使う場面やそのときの気持ちといった「背景」を体にしみこませるので、そのことばを母語のように自然に理解することが可能になるのです。

多読のコツはありますか。

粟野さん

英語多読を例にお話しすると、①辞書は引かない/②わからないところは飛ばす/③合わないと思ったら投げる/という「多読三原則」があります。ことばの意味を調べることに時間をかけず、わからないところはそのままにしてどんどん読み進め、それで楽しく読めないのなら楽しめそうな次の本に移る、というのが多読のやり方です。何よりも大切なのは、楽しめるものをたくさん読むことで、難しすぎたり内容に興味が持てなかったりする本を無理して読む必要はありません。また、「辞書を引かなければ、わからない単語はいつまでもそのままなのでは」と思うかもしれませんが、たくさんの本を読んで何度も同じことばと出会ううちに、少しずつそのことばのイメージを日本語を介さずにつかめるようになっていきます。多読は、ある程度の英語力がある人がさらなるステップアップを目指すための学習法としても有効です。やさしいよみものから順に読み進めることで、日本語に置き換えることなく英語を英語のまま理解することができるようになると、ずいぶんと違う世界が見えてくると思います。

多言語多読
約1万8000冊の本が並ぶ事務所。
読んで読んでも尽きることはありません。
多言語多読

「英語多読講座」や「日本語多読クラス」の参加者からはどんな声が寄せられていますか。

多言語多読
大久保図書館で毎年行われる日本語多読ワークショップ
外国人のみなさんと日本語の本を楽しみます。
多言語多読

粟野さん

英語の多読講座の参加者からは、「気づいたら、いろんな読みものが読めるようになっていた」、「英語の勉強が目的で始めたけれど、絵本を読むのが好きになってやめられなくなった」といった声をよく聞きます。また、「スピーキングが上達した」、「ライティングが得意になった」いう声を聞くこともあります。「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能はすべてつながっているので、多読によって体にしみこんだ単語や表現が自然と口から出て来るということは少しも不思議ではありません。結局のところ、たくさんのインプットがアウトプットを生むのです。また、日本語の多読クラスには、9年間通い続けている人がいます。英語で仕事をされているため日本語はあまり得意でなかったのですが、ごく薄い本から始めて、今はルビつきながら、星新一のショートショートを読めるまでになりました。「少しずつだけれど進歩しているのを感じるからやめられない」と言ってくれています。

今後の活動の展開についてお聞かせください。

粟野さん

日本語多読については、これまで通り多読専用図書を制作していくとともに、多読に向いている一般図書をもっと発掘して、こんなおもしろい読みものがあるということを日本語学習者に提示できるようにしていきたいと思います。日本語多読は、外国人が日本語を学ぶ際に大きな壁となる漢字を身につけるのにも最適な学習方法です。会話が最優先という人は別として、日本で長く生活する中ではやはり文字が読めるようになりたいという人には、ぜひ多読に挑戦していただきたいです。英語多読についても、こんなに楽しい学習法があるということをもっと多くの方に知ってもらうために、オンライン講座を充実させていく予定です。さらに多読するには本が大量に必要なので、図書館利用ができるよう、日本語、英語とも図書館多読普及には特に力を入れています。また、私たちはいま、多読・多聴・多観と言っていて、本を読んだり、朗読音声を聴いたりすることだけでなく、アニメや動画などを観ることもおすすめしています。自分がおもしろいと感じるものや、好きと思えるものにたくさん触れることで、楽しくことばを身につけていってほしいと思います。

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