2020年9月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

一般社団法人 やさしいコミュニケーション協会

~ やさしい日本語で誰もが情報を受け取りやすくなるコミュニケーションを ~

今月のクローズアップは、一般社団法人やさしいコミュニケーション協会をご紹介します。やさしいコミュニケーション協会は、「ことばとデザインでコミュニケーションをもっとスムーズにする」をミッションとして、2019年5月に設立されました。代表理事の黒田友子さんいわく、「やさしいコミュニケーション」とは、情報が受け取りやすくなるよう、相手を思いやったコミュニケーションのこと。協会では現在、主に医療の現場で働く人たちに向け、やさしいコミュニケーションを実現する方法のひとつである、「やさしい日本語」の講座を提供しています。フリーランスの日本語教師や「やさしい日本語アドバイザー」としても活躍されている黒田さんに、協会の活動とやさしい日本語についてお話を伺ってきました。

やさしいコさいミュニケーション協会
代表理事 黒田友子氏

やさしいコミュニケーション協会設立の経緯をお聞かせください。

やさしいコミュニケーション協会
講座の会場で堀成美さん(写真右)と。
医療者として講義を行ってくださいます。
やさしいコミュニケーション協会

黒田さん

フリーランスの日本語教師として活動するようになってすぐ、ある講演会でやさしい日本語に出会った私は、このことばを広く知ってもらうための活動を始めました。そんな中、私がやさしい日本語に書き換えた麻疹の流行に関する注意喚起チラシに目を止め、ご連絡をくださったのが、国立国際医療研究センターの堀成美さんでした。堀さんは、医療者の間にやさしい日本語を広めたいという考えをお持ちで、そのための研修制度を一緒に作りましょうとお声掛けくださったのです。その後、この「やさしい日本語(医療)研修」を東京だけでなく日本各地で行っていけるように、2019年5月に協会を設立しました。名称の「やさしいコミュニケーション」には、相手が情報を受け取りやすくなるように、ことばをやさしくする以外のこともしていこうという思いを込めました。私はイラストレーターやデザイナーの仕事もしているので、イラストが持つ情報量を利用したり、デザインを工夫することで、より多くの情報をわかりやすく伝えることを目指していきたいと考えています。

活動内容を教えてください。

黒田さん

メインの活動は、国立国際医療研究センターと一緒に研究開発した「やさしい日本語(医療)研修」の提供で、医療の現場でやさしい日本語を活用していただくための3つの講座を開催しています。最初のステップが、やさしい日本語の基本を理解し現場の仲間に伝える力を身につける「やさしい日本語(医療)サポーター養成講座」。次が、やさしい日本語の基本知識を活用し現場でアドバイスを行える力を身につける「やさしい日本語(医療)インストラクター養成講座」。そして最後のステップが、現場でやさしい日本語についてのセミナーを開催できる力を身につける「やさしい日本語(医療)トレーナー養成講座」になります。参加者の多くは、看護師、保健師、薬剤師、病院の事務員といった方々で、現場で外国人に対する機会が増えていることから、やさしい日本語に興味を持たれるようです。また、医療通訳を育成する学部で教鞭を取られている大学の先生方などもいらっしゃいます。参加者からは、「自分がふだん難しいことばを話していることに気づいた」、「やさしく話すのはとても難しいという発見があった」などの感想をいただくことが多いです。

やさしいコミュニケーション協会
熱心に課題に取り組む参加者たち。
意外に楽しんでくれる人が多いそうです。
やさしいコミュニケーション協会

最初のステップであるサポーター養成講座ではどのようなことを学ぶのですか。

やさしいコミュニケーション協会
より伝わりやすい表現を求めて
試行錯誤を重ねます。
やさしいコミュニケーション協会

黒田さん

最初に、堀さんから医療現場での翻訳デバイス・アプリ利用の注意点、やさしい日本語がなぜ医療現場で必要なのか、そして医療通訳の活用などについてお話があります。堀さんのお話は聞くたびに新しい発見があり、私も毎回とても楽しみにしています。そのあと、私がやさしい日本語の基本についてお話していきます。たとえば、「こんにゃくは太らない」、「今日は工事中です」といった文章を日本人は自然に理解することができますよね。けれども外国人は、「こんにゃくは大きくならない」や「今日=工事中」と受け取る可能性があります。つまり、これらの文章を正しく理解してもらうためには、「こんにゃくは食べても太らないです」や「今日はこの建物は工事をしています」のようにことばを補わなければなりません。こうした意識を持つことは、翻訳機を使う際にどんな日本語をインプットすれば正確な訳文が得られるかを考えることにもつながります。また、やさしい日本語は、経験を積めば積むほど上手になりますので、講座の中でもやさしい日本語にする練習をたくさん行います。まず日常生活のことばから始め、そこから医療の現場でよく使われることばをやさしくしていく訓練へ。一言で説明する必要はなく、私は文章で説明することを推奨しています。たとえば、新型コロナの件でよく聞かれる「倦怠感」は、「とても疲れています。動きたくありません」とすればわかりやすいと思います。

医療の現場で使うやさしい日本語だからこその難しさが色々とありそうですね。

黒田さん

例えば、新型コロナの「軽症」という言葉の定義について、私は普通の風邪のような症状を指すのかなと考えていました。しかし、実際には、患者として息苦しい、つらいと感じる症状も「軽症」であることをニュースで知りました。このように、医療者と一般の人とでことばの定義が異なることがあるので、自分のイメージだけで、「軽症」を「大変じゃない」とやさしい日本語にするのは望ましくないと私は考えています。自分で調べることはもちろんですが、必要に応じて医療者に確認をしたほうが良い場合もあります。また、医療の現場で外国人に対するとき、どこまでやさしい日本語でのコミュニケーションにトライして、どこから医療通訳や翻訳機を利用する多言語のサポートに切り替えていくかという判断も必要になります。ただ、医療通訳にしろ、翻訳機にしろ、訳された外国語が正しいかどうかを医療者が確かめるすべはありません。だからこそ、通訳や翻訳機を使うときも、なるべくやさしい日本語を使って説明し、誤訳や誤解を減らすような工夫をしていくことが大切なのです。

やさしいコミュニケーション協会
やさしい日本語の講座や講演の数は
設立から1年で19回に及びました。

やさしいコミュニケーション協会

やさしい日本語でコミュニケーションしてみたいという人にアドバイスをお願いします。

やさしいコミュニケーション協会
サポーター養成講座修了者に渡すバッジ。
情報の受発信を象徴する色を使っています。

やさしいコミュニケーション協会

黒田さん

講座の中でも、「日本で出会う外国人には、まず日本語で話しかけてください」とお伝えしているのですが、そのとき大事なのは相手の反応をよく見ることです。返ってくるのが外国語なのか、拙い日本語なのか、それとも流暢な日本語なのか、あるいはこちらの言ったことがまったく聞き取れていない様子なのか。よく見極めた上で対応を調節することが大切です。また、敬語の使用を避けるのがやさしい日本語のポイントのひとつなのですが、自分が外国人だとわかった途端に「タメ口」で話をされたり、子どもを相手にしているかのような話し方をされるのがすごく嫌だという声を外国人から聞くことがあります。薬局で薬剤師が外国人に、「このお薬をごっくんしてくださいね」と言っているのを耳にしたときは、私もショックを受けました。本当の意味で、目の前にいる相手を思いやったコミュニケーションを心掛けていただけたら嬉しいです。

今後の活動の展開について教えてください。

黒田さん

コロナ禍で集合研修が実施できなくなっているのですが、オンラインやeラーニングを取り入れる形で、各養成講座を順次開催していきたいと考えています。やさしい日本語に関する講義やセミナー、原稿の執筆、やさしい日本語への書き換えなども、ご依頼をいただければ、できるかぎりお応えしていく所存です。また、医療分野のやさしい日本語に取り組んでいることが当協会の特色なので、看護師、保健師、薬剤師など、医療分野の各職種に特化した講座づくりも進めていきたいと思います。あとは、私以外にも講座を担当できる人を増やしていきたいです。医療分野のやさしい日本語というとなかなか踏み込みづらいかもしれませんが、一緒にやっていく仲間が必要だと考えています。

やさしいコミュニケーション協会
インストラクター養成講座の皆さんと。
サポーターからステップアップしました。
やさしいコミュニケーション協会

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