2020年7月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

国歌の輪プロジェクト

~ 世界の国歌は最強の国際交流ツール ~

今月のクローズアップは、国歌の輪プロジェクトをご紹介します。みなさんは、他国の国歌を歌ったことがありますか?また、外国人に自国の国歌を歌ってもらった人がどれほど驚き感激するかを想像したことはありますか?「国歌研究家」として世界の国歌にまつわる様々な情報発信を行う淺見良太さんは、世界各地でその国の国歌を歌い現地の人と交流した経験から、国歌の輪プロジェクトを立ち上げるに至ったそうです。「国歌は最強のコミュニケーションツール」と語る淺見さんに、国歌の魅力と国歌を通じた国際交流の醍醐味について伺いました。

国歌の輪プロジェクト
国歌の輪プロジェクト 代表理事 淺見 良太氏

淺見さんが世界の国歌に興味を持ったきっかけを教えてください。

国歌の輪プロジェクト
国歌研究家として活動する淺見さん。
国内外で国歌の録音活動を続けてきました。
国歌の輪プロジェクト

淺見さん

世界各地を旅した学生時代、現地の人と仲良くなりたくて様々なコミュニケーションツールを試しました。折り紙、日本の硬貨、けん玉、オカリナ、南京玉すだれ…。特に、けん玉と南京玉すだれはいいアイデアだと思ったのですが、現地の飛行場や駅の手荷物検査で、武器やダイナマイトと間違われるというトラブルに見舞われまして(笑)。何かもっといいものがないかと考えていたとき、ベネチアで現地の学生にイタリア国歌を聞かせてもらう機会があって、国歌って面白いなと思ったんです。そこで早速、旅行先の国の国歌を覚えて現地で歌ってみたところ、これが大当たりで。どんどん人が集まって来て、アイドルになったような気分を味わったこともありました(笑)。

そうした体験が国歌の輪プロジェクトの設立へとつながったのですね。

淺見さん

はい。日本には190を超える国や地域の人が暮らしていますが、なかなか外国から来た人たちと交わる機会がない、というのが僕の抱いていた実感でした。じゃあ、どうしたら彼らと仲良くなれるだろうと頭を巡らしたときに思いついたのが、学生時代に旅先で実践していた「国歌を通じた交流」だったんです。僕はよく「国歌は最強のコミュニケーションツール」と言っているのですが、それにはいくつかの理由があります。まず、国歌を歌うのには何の道具もいらないこと。発音が悪くてもメロディーで何となく国歌とわかってもらえること。「自分の国に興味を持ってくれた」という喜びを相手に感じてもらえること。国歌を歌える人はなかなかいないので相手に覚えてもらえること。そして、歌詞やメロディーを通して、その国のことを知ることができるということ。2015年にスタートした国歌の輪プロジェクトは、この最強のコミュニケーションツールである国歌を使って国際交流や多文化共生を促進することを目指して立ち上げました。

国歌の輪プロジェクト
活動を通して出会った人たちとコラボすることも。
こちらはエチオピアのコーヒー文化を紹介するイベント。
国歌の輪プロジェクト

主にどのような活動を行っているのですか。

国歌の輪プロジェクト
コロンビア大使館での国歌斉唱。
大使館からのリクエストで繰り返し歌いました。
国歌の輪プロジェクト

淺見さん

大きく分けて3つの柱があります。1つめは国歌についての情報収集と発信です。国歌に関する情報はインターネットや書籍などで目にすることができますが、実は間違っている情報も少なくありません。そこで、大使館を含む信頼できる機関から正しい情報を提供してもらい発信しています。2つめは国歌の録画と録音です。出会った外国人に「あなたの国歌を歌ってほしい」とお願いしたりして、歌声を録音しています。生の歌声からは歌い手の自国に対する想いが伝わってきて、はっとさせられたことが何度もありました。そして3つめが国歌にまつわるイベントの企画と開催です。メインはワールドフードラリーという国際交流イベントで、その国の料理を食べ、文化を体験し、国歌を歌うことで、日本に住む外国人の祖国に心を寄せてもらうことを目的としています。大使館との共催イベントのため、主に大使館や大使公邸を会場としています。

国歌にまつわるエピソードをいくつか教えてください。

淺見さん

世界には歌詞がない国歌もあり、現在のスペインの国歌もそのひとつです。実は過去に何度も歌詞をつけようという試みがなされたのですがいずれも失敗しており、その原因のひとつとして高度な自治を求める地域が持つ中央政府への不満が挙げられるでしょう。その国の政治の影響を強く感じるエピソードとしては、タリバン政権下のアフガニスタンではコーランの独自解釈により音楽が禁じられ国歌がなかったことや、現在の南アフリカの国歌が黒人解放運動の象徴として歌われていた讃美歌とアパルトヘイト時代の国歌をひとつにつなぎ合わせたものであることなども挙げられるでしょう。一方、国歌にはいろいろとおもしろいエピソードもあって、メキシコ国歌には、歌詞を公募した際、嫌がる作詞家のお尻を婚約者が叩き、部屋に缶詰めにして書かせた歌詞が採用されたというユニークな逸話が残っています。また、中南米の国歌はだいたい長くて、朝礼で歌っている間に倒れる子どもが続出するという話も。そして、国歌の歌詞やメロディーが変わるのも決して珍しいことではなく、最近ではカナダがジェンダーフリーの観点から「息子たち」という歌詞を「私たち」に変えています。

国歌の輪プロジェクト
「国歌は決して硬いものではない。気軽に触れてほしい」と語る淺見さん。

活動を展開される中で苦労している点とやりがいを感じる点を教えてください。

国歌の輪プロジェクト
パキスタン大使館でのイベント。
パキスタンの方も多く参加してくれました。
国歌の輪プロジェクト

淺見さん

「国歌を歌うって思想的に偏りがあるのでは」と怪しまれてしまうことは活動の壁になっています。日本では戦後処理の問題もあって国歌が政治思想とつなげられがちですが、国歌は英語で“national(国の) anthem(賛歌)”。つまり相手の国歌を歌うことは、相手の国に敬意を表するということです。そして僕たちの活動はあくまでも、相手の国歌を歌うことで国際交流しましょうということなんです。国歌の輪プロジェクトのイベントに恐る恐る参加される方も結構いるのですが、そういう方が他国の国歌を歌って盛り上がった後、「楽しかった」「この国に親近感が湧いてきた」と言ってくださるのを聞くと、この活動をやっていて良かったなと思います。また、イベントを共催した大使館の外交官が「日本の人たちが我々の国歌を歌ってくれた」と感激している姿を見るとこちらも嬉しくなります。さらにイベントの様子が現地のニュースで取り上げられることもあり、それが日本人を身近に感じたり、日本という国にいいイメージを持ってもらうことにつながっていることも嬉しく思います。

今後の活動の展開について教えてください。

淺見さん

国歌の輪プロジェクトの活動は、今年5年目を迎えました。まだまだ知名度の低い団体ではありますが、イベントを手伝ってくれる人も増えてきましたし、いろいろな団体の方たちとのつながりもできました。また、企業や行政機関と一緒にイベントを企画したり、教育機関などで世界の国歌について話をする機会をいただけるようにもなっています。国歌の輪プロジェクトが目指しているのは、国歌で人をつなげ輪を作ること。そしてその輪を通じて国際交流や多文化共生を促進していくために、僕たちだけではできない、彼らだけでもできない、何かおもしろいことをやっていきたいと考えています。また、国歌研究家として、世界の国歌の奥深さをもっと多くの人に知ってもらいたいと願っています。「国歌を歌って」というリクエストに、祖国を想い涙したイラク難民から、「女王陛下の歌は好きじゃない」と渋るイギリス人まで、これまでいろいろな人と出会ってきました。その国の歴史、文化、社会情勢などが反映される国歌を通して、世界には多様な価値観があることを伝えていきたいです。

東京都国際交流委員会

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