2020年3月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

NPO法人セブンスピリット

~ セブ島の子どもたちに音楽を通して未来を切り拓く力を ~

今月のクローズアップは、フィリピンのセブ島を拠点とするNPO法人セブンスピリットをご紹介します。セブンスピリットを設立した田中宏明さんは、元パチスロライター。東京で気ままな生活を送っていましたが、30歳を迎えたのを機に人生を一変したいと考え、日本を離れます。そして紆余曲折の末、フィリピンに移住し、路上やスラムで暮らす子どもたちを支援するNPOを立ち上げることとなりました。セブンスピリットの活動の特徴は、音楽を通して子どもの成長を後押ししていくこと。音楽に出会い、喜びと生きがいを得た子どもたちは、目標に向かって努力することを学び、大きく成長していくそうです。日本に帰国していた田中さんに、セブンスピリットの活動について詳しくお話を伺いました。

NPO法人セブンスピリット
理事長 田中 宏明 氏

セブ島を拠点とすることになった経緯をお聞かせください。

NPO法人セブンスピリット
セブンスピリットの目標は、音楽を通して
自己実現に向けた力をつけることです。
Seven Spirit

田中さん

30代を迎え新たな道を探していたとき、紛争で傷ついた子どもたちをケアするドイツの施設に興味を持ち、そこでボランティアをするために英語を身につけようと考えました。そこで語学留学先として選んだのがフィリピンのセブ島です。ほどなくドイツの施設でボランティアをするにはドイツ語が必須だとわかり断念したのですが、せっかくフィリピンに来たのだからと、平日は語学学校に通い、週末は学校が紹介してくれた孤児院でボランティアをするという生活を続けました。そして、この孤児院で出会ったのが、子どもたちに鍵盤ハーモニカを教えていた日本人の大学生です。彼からベネズエラで始まったスラムの子どもたちのための音楽教育プログラム「エル・システマ」の話を聞き、また、鍵盤ハーモニカの演奏が上達するにつれ、孤児院の子どもたちの表情がどんどん変わっていくのを目の当たりにしたことで、自分もフィリピンで音楽教育をやりたいと考えるようになりました。リゾート地として知られるセブ島にも貧しい地域があり、学校に行かず暇を持て余して犯罪やドラッグに手を染める子どもも少なくありません。こうした子どもたちに何か情熱を持って打ち込めることを提供できたらと思ったのです。

セブンスピリットの活動はどのようにスタートしたのですか。

田中さん

2011年5月末に語学留学が終わってからNPOの立ち上げに向けて動き出し、実際にセブ島で活動を始めたのは2012年7月から。活動する場所も、子どもたちのための楽器もない状態でのスタートでした。まずは現地でスタッフ2名を採用、路上で物を売ったり物乞いをしている子どもたちにビラを配り、「一緒にご飯を食べようよ」と声をかけて回りました。そして、集まって来た子どもたちに、「じゃあ、いただきますの前にちょっと歌ってみようか」「鍵盤ハーモニカの音に合わせて手を叩いてみようか」というところから始めたんです。その後、日本からの寄付でリコーダーや鍵盤ハーモニカといった楽器も増え、少しずつ音楽らしい音楽をやるようになっていったのですが、屋外で活動していたため、雨の日は音楽教室を開催できず、それを子どもたちに伝える手段もありませんでした。そこで拠点づくりに向けて2012年11月にクラウドファンディングを実施、集まった資金で音楽スタジオを借りて活動するようになりました。

NPO法人セブンスピリット
鍵盤ハーモニカに挑戦する子どもたち。
まずは音楽を楽しむことが第一です。
Seven Spirit

現在の活動内容を教えてください。

NPO法人セブンスピリット
オーケストラの中で演奏することで、
自分の役割を果たすことを学びます。
Seven Spirit

田中さん

週6日、放課後の時間帯に音楽教室を開催しています。教室に来る条件は、毎日学校に通うこと。実際、音楽教室に来たくて学校に行くようになった子どもも少なくありません。音楽に時間を費やすようになったことで、路上で物盗りをするのをやめたという子もいます。教室に参加するとまず、リコーダーや鍵盤ハーモニカで曲を吹けるように練習します。半年ほど経つとオーディションがあり、これに合格するとオーケストラ・クラスでバイオリンやトランペットといった楽器を扱えるようになります。演奏の練習をするだけでなく、さまざまな場所に招かれ演奏会を行うことも増えてきました。現在、セブンスピリットの活動に参加しているのは、出張教室も合わせると総勢200名ほど。小学1年生から20歳の大学生までいますが、一番多いのは高校生です。年齢が上の子は出張教室で先生役を務めたり、下の子どもたちを引っ張ってくれています。スタッフは常駐の音楽講師1名のほか、アルバイトを含めて現地スタッフが10名ほど。残念ながら、入りたいと希望する子ども全員を受け入れることはできていません。

音楽教室に通うようになった子どもたちにはどのような変化が見られますか。

田中さん

音楽に取り組むことで目標に向かって努力することを学び、世界が広がるのは間違いないですね。スラムの子どもたちになりたい職業を尋ねると、だいたい男の子は警察官、女の子は販売員と答えます。狭い世界で生きているので、それしか思い浮かばないんです。でもセブンスピリットの子どもたちは、「日本へ行きたい」「アメリカで働きたい」など、外の世界に強い関心を持つようになったり、「将来こうなりたいけれど、そのためにはどんな努力をすればいいんだろう」と考えるようになるなど、夢への道を具体的に描けるようにもなります。フィリピンのスラムの子どもが貧困の連鎖から抜け出そうと思ったら、きちんとした教育を受けることが一番です。今は、セブンスピリットの子どもがセブ島の大学に入学を希望する場合、学内オーケストラに所属することを条件に学費が免除される制度もあるので、自費での進学が難しい家庭の子も、自分の力で道を切り拓いていってほしいと思います。

日本公演も2回行われていますね。

田中さん

はい。2017年に1回目の、そして2019年に2回目の日本公演を行いました。クラウドファンディングで資金集めをしたり、子どもたちのパスポートを取るのに走り回ったりと、準備が本当に大変でした。でも、来日中に子どもたちの意識が大きく変わっていく様子を目にして、日本公演がとても貴重な成長の機会であることを実感しました。演奏への向上心がより高まりましたし、ごみの落ちていない日本の街並みに感激し、帰国後きちんと掃除をするようになった子もいます。何より、子どもたちにとって日本公演は大きな目標だったので、それが叶ってみんなステージで泣いていましたね。滞在中の宿泊、食事、移動のアレンジをひとりでこなした僕としては、「もう日本公演はこりごり」と思っているのですが…、もしかしたら「また、やろう!」と言ってしまうかもしれません。

NPO法人セブンスピリット
2019年の日本公演のステージ。
お客様ももらい泣きしていました。
Seven Spirit

今後の活動の展開についてお聞かせください。

NPO法人セブンスピリット
セブンスピリットの最終的な目標は
セブ島に大学を作ることと語る田中さん。

田中さん

セブンスピリットの活動は今、音楽が中心になっているのですが、音楽に興味が持てず路上に戻ってしまう子どももいるので、音楽教育以外も提供していきたいです。今後は、設立当初から何度も取り組みながら、場所がなかったり指導者がいなかったりで継続することができなかったスポーツ教育にもう一度本腰を入れて取り組みたいと思っています。それから、まだ先の話ですが、将来的にはセブンスピリットを仕事に直結するような専門性のあることを学べる専門学校にできたらと考えています。フィリピンの子どもたちが、できるだけ多くの選択肢の中から自分の人生を選び取っていけるようになること、それが僕の願いです。

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