2019年10月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

NPO法人AfriMedico

~ 日本の「置き薬」をモデルに、アフリカに健康と笑顔を届ける ~

今月のクローズアップは、NPO法人AfriMedicoのご紹介です。家庭に薬箱を設置し、定期的に訪問して、使われた薬の補充と代金の回収を行う「置き薬」。アフリカで医療支援に取り組むAfriMedicoは、江戸時代に日本の富山で生まれたこの置き薬の仕組みを活用して、病院や薬局がなく医療へのアクセスが困難な地域に、自分たちの健康を自分たちでケアする「セルフメディケーション」を広めようとしています。今回は理事の青木基浩さんに、AfriMedicoが現在タンザニアで行っている置き薬事業についてお話を伺いました。

NPO法人AfriMedico
NPO法人AfriMedico 理事 青木 基浩 氏

AfriMedico設立の経緯を教えてください。

NPO法人AfriMedico
ニジェールでのボランティアの経験が
町井さんをNPO設立に導きました。
NPO法人AfriMedico

青木さん

当団体代表の町井恵理は、薬剤師として製薬会社に6年間勤務したあと、JICAの青年海外協力隊に参加、ニジェールで感染症の予防啓発活動に従事しました。2年の活動期間を経て、ボランティアとしてできる支援に限界を感じた町井は、経営大学院に進学、アフリカの医療問題を根本から改善するために、持続可能なビジネスモデルを作ってアフリカに届ける術を模索します。そして、「置き薬の仕組みを活用した持続可能な医療モデルの構築」というアイデアを形にすべく、2014年4月に大学院の仲間たちとAfriMedicoを設立したのです。ニジェールの情勢が悪化していたため、AfriMedicoは現地の薬剤師とのコネクションがあるタンザニアを拠点として活動をスタートしました。「医療を通じて、アフリカと日本をつなぎ、健康と笑顔を届ける」をミッションに掲げ、タンザニアで置き薬システムの普及、住民への医療教育、現地の医療環境調査に取り組むほか、日本国内でもセミナー・イベント等の開催を通して、アフリカの医療の現状を伝える活動を行っています。

なぜ、置き薬の仕組みがアフリカで活用できると考えたのでしょうか。

青木さん

置き薬が広く利用されていた当時の日本の状況を考えてみると、インフラが整備されていない、大家族で暮らしている、国民皆保険制度が存在しないなど、現在のアフリカの農村部と多くの共通点があることに気づかされます。町井はここから、アフリカの地域医療を改善する手段として、置き薬の仕組みが有効なのではないかと考えました。広大な国土の中で、病院や薬局がなく医療へのアクセスが困難な地域に置き薬を導入することで、下痢や風邪といった、病院に行かなくても治る病気で亡くなる人を減らすことができる。必要なときに必要な薬を利用できる置き薬の最大のメリットは、自分たちの健康を自分たちでケアするセルフメディケーションを実現できることなのです。

NPO法人AfriMedico
活動地域のひとつ、ブワマ村。Googleマップにも表示されません。
NPO法人AfriMedico

タンザニアでどのように置き薬事業を展開しているか教えてください。

NPO法人AfriMedico
置き薬ボックスを手にする村人。
置き薬を置く家庭は年々増えています。
NPO法人AfriMedico

青木さん

現在、タンザニア東部の3つの村で置き薬事業を展開しています。このうちブワマ村とメレゲレ村は、タンザニアの中心都市ダルエスサラームから車で3時間以上の位置にあり、最寄りの医療機関まで車で30~40分、歩けば2~3時間かかります。そしてもうひとつのングオムベヘラ村は、メレゲレ村からバイクでさらに20分ほどかかる奥地にあります。AfriMedicoは2018年度までに、この3つの村の約200軒の家庭に置き薬を設置しました。置き薬ボックスに入っているのはタンザニアで調達した薬で、解熱鎮痛薬、抗アレルギー薬、咳止めなどの内服剤と消炎鎮痛剤、皮膚トラブルの薬などの外用薬、その他経口補水液や消毒液などです。これらの中から使用した薬の代金だけを支払えばいいので、村人たちは遠い病院に行き、長い待ち時間を過ごす必要がなくなります。また、病院でもらった処方箋を持って薬局に行ったものの、肝心の薬がなく無駄足を踏んだというようなことも防げるのです。

置き薬の配置とともに住民への医療教育や医療環境の調査にも取り組まれていますね。

青木さん

AfriMedicoのミッションはアフリカの人たちに健康と笑顔を届けることですから、単に薬を届けるだけでなく、薬の正しい使い方はもちろん、病気をどう予防したらよいかを伝えることも大切にしています。たとえば、村人にとって一番身近な病気であるマラリアを防ぐためには蚊帳の使用が欠かせないことを、紙芝居のようなわかりやすいツールを用いて村人に説明するといった具合です。また、現地で活動の中心となっているのは、各家庭に置き薬を配置する拠点であり、村の住民の健康を守る保健センターでもある「OKIGUSURIステーション」で、薬の補充、代金回収、医療教育、情報発信を担っています。さらに、医療環境の調査もAfriMedicoの大切な活動のひとつです。アフリカの一般家庭ではどのような医薬品が必要とされているのか、僻地の家庭まで薬を届けるにはどのような輸送手段があるのかなどについて、独自のネットワークを用いて調査しています。

NPO法人AfriMedico
紙芝居を使って村人に医療と健康に関する知識を伝えます。
NPO法人AfriMedico

現地のスタッフはどのような役割を担っているのでしょうか。

NPO法人AfriMedico
置き薬のチェックを行う現地のスタッフ。
事業の拡大には人材育成が鍵となります。
NPO法人AfriMedico

青木さん

タンザニア人の現地スタッフは、在庫チェックや薬剤補充、代金回収、顧客ニーズのヒアリング、薬の使い方の説明や電話相談を行っています。実は、これらの役割を担う現地スタッフが不足しているため、本来ならもっと速いペースで置き薬を設置する家庭を増やせるのですが、あえて控えているという状況です。スタッフには少なくとも看護師レベルの医学的な知識が求められる上、営業スキルやコミュニケーション能力も重要なので、すべてを満たすスタッフを育成するのには、どうしても時間がかかってしまいます。

日本の伝統的な医療モデルである置き薬をどうアレンジして展開しているのでしょうか。

青木さん

アフリカの事情に即した薬剤、価格、供給体制を取り入れた「アフリカ版置き薬」にアレンジすることはもちろん、ITやAIを活用した「現代版置き薬」へのアップデートにも挑戦しています。スマートフォンの普及率が高いアフリカで、モバイルマネーを活用した代金回収のシステムや、簡単に使用できる薬剤在庫管理アプリを開発・導入することで、置き薬の効率化と低コスト化を進めてきました。また将来的には、顧客情報と使用薬剤をデータベース化することにより、在庫管理を自動化するシステムを構築することも目指しています。置き薬というビジネスモデルは現代の日本ではなかなか立ち行かなくなってきていますが、アフリカで置き薬を今の時代に適した形にうまく進化させることができれば、それを日本でふたたび展開できる可能性もあるのではないかと考えています。

AfriMedicoは、パラレルワーカーの集団だそうですね。

青木さん

はい、理事も含めたすべてのメンバーが、本業を持ちながら、自分の専門やスキルを活かして社会貢献活動をするプロボノとして参加しています。医療、アフリカ、ソーシャルビジネス、このいずれかに携わる企業に勤める者たちが、それぞれの想いを持ってここにたどり着き、空いた時間を使ってAfriMedicoの活動にコミットしています。プロボノとして活動することは個人の能力アップにもつながり、メンバーの本業にもいい影響をもたらしているようです。

今後の活動の展開についてお聞かせください。

青木さん

これからのチャレンジとしては、IT、AIを活用した活動のさらなる効率化にくわえ、日本の薬剤をタンザニアに導入するということが挙げられます。今は、現地で入手できる外国の薬を各村に置いていますが、将来的には日本の薬を配置するということもやっていきたいですし、これを実現するためにもまず、置き薬が単なるビジネスモデルでなく、医療として有効であるというエビデンスを示すことが必要だと考えています。そこで、「置き薬を置いたことで医療費が安くなった、生存率が上がった」など、置き薬の有効性をデータで示すための取組みを大学と一緒に進めているところです。総合的なエビデンスがあれば日本の製薬会社もアフリカ進出に踏み出しやすくなりますし、それが結果としてアフリカの人々の健康と笑顔につながれば嬉しいですね。

NPO法人AfriMedico
医療系データソリューションを提供する企業に勤務する青木さん。
日本の製薬業界の発展にも寄与したいと語ります。

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