2019年9月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

一般社団法人JEAN

~ 海洋プラスチックごみ問題をブームで終わらせないために ~

今月のクローズアップは一般社団法人 JEANをご紹介します。近年、にわかに注目を浴びるようになった海洋プラスチックごみ問題。自然分解されず半永久的に残る使用済みプラスチックが劣化し小さな破片となった『マイクロプラスチック』が環境に与える影響について、メディアが大きく取り上げる機会も増えてきました。長年、海洋ごみ問題の解決に向けた取組みを続けてきたJEANでは、この『マイクロプラスチック』という言葉がなかった1990年代後半から、海岸に散らばるプラスチックの破片に注目し、調査を続けてきたそうです。JEANの事務局長を務める小島あずささんに、団体設立の経緯やこれまでの活動についてお話を伺いました。

一般社団法人JEAN
事務局長・副代表理事 小島 あずさ氏

一般社団法人JEAN設立の経緯を教えてください。

一般社団法人JEAN
漂着したゴミであふれかえる海岸。
浜へ降りる道がなければ回収は困難です。
一般社団法人JEAN

小島さん

JEANの活動は、日本で初めて「国際海岸クリーンアップ(International Coastal Cleanup、通称:ICC)」に参加した有志によってスタートしました。ICCは1986年にアメリカの環境NGOの呼びかけで始まった活動で、世界中の海に面した国や地域で一斉に海岸の清掃を行うとともに、集めたごみの調査を実施します。JEANの創設メンバーとなるひとりがICCに参加しようと思い立ったのは、市民が環境問題について考え行動するムーブメントであるアースデイが日本でも盛り上がり始めた1990年のこと。最初は家族や友人などごく内輪でやるつもりでしたが、その挑戦が小さな新聞記事になったことで各地から問い合わせが相次ぎ、結果として日本初のICCは全国80か所で実施されることとなったのです。そして翌1991年に、ICCへの参加の呼びかけや調査結果の取りまとめを続けていくために「JEAN(Japan Environmental Action Network)/クリーンアップ全国事務局」が発足し、2009年にはさらなる活動の発展を目指して一般社団法人JEANとなりました。海のごみ問題の解決を目指し、30年近くにわたって活動を続けてきたことになります。

ICCではなぜ、海岸の清掃とごみの調査を同時に行うのでしょうか。

小島さん

日本のICCでは、集めたごみを45品目に分類してデータを取っています。非常に手間のかかる作業のため、「ごみを拾うことに専念した方が何倍も海岸をきれいにできるのに」と言われることも多いです。けれども海のごみ問題は清掃をするだけでは解決しません。いくらごみを回収しても新たなごみが発生し、漂着・散乱するからです。根本的な解決を目指すにはごみが発生する元を断たなければならず、そのためにはまず、どんなごみがどれくらい漂着しているかという実態を知ることが必要なのです。また、継続的にデータを取ることでごみの質と量の変化がわかります。たとえばJEANでは、20年以上も前から海岸に散らばる細かいプラスチックの破片について異変を感じ、調査や周知のための活動を続けてきました。マイクロプラスチックという言葉が使われるようになるずっと前から、回収が難しいほど小さくなったプラスチックごみが増えていることに注目していたのです。

一般社団法人JEAN
集めたごみを細かく分類しデータカードに書き込みます。
一般社団法人JEAN

次第に海洋ごみに関わる様々な活動を広く行うようになったそうですね。

小島さん

ICCのナショナルコーディネーターとして全国ネットワークで活動していくうちに、海流や季節風の影響で集中的にごみが漂着する地域が大変な苦労を抱えていることを知りました。たとえば、過疎化が進む離島の海岸に大量のごみが漂着してもごみの回収の担い手が少なく、ボランティアが行ってごみを集めたとしても島内にそのごみを処理できる施設がない場合もあります。そして船でごみを本土に運んでも、他の自治体の施設で処理することはできないので、島の予算から高い費用を払って産廃処分をしなければならないのです。こうした状況を改善していくために、JEANでは海洋ごみ問題に関わる啓発活動や政策提言などにも力を入れるようになりました。私たちがロビー活動を行い議員立法によって成立したのが、2009年に制定された海岸漂着物処理推進法です。この法律ができたことで海岸を管理している都道府県に国の補助金が出るようになり、海洋ごみの回収活動はずいぶん進展しました。

海のごみを減らすために、私たち一人ひとりにできることはありますか。

一般社団法人JEAN
横浜の海岸で回収した漂着ゴミ。
緑の破片は玄関マットの人口芝です。

小島さん

自分も当事者のひとりだと自覚することが大切です。海岸に漂着するごみの多くは街からやって来ます。ポイ捨てやごみ処理施設へ運ばれる過程でこぼれ落ち、風や雨で流されて最終的に海に流れ着くのです。ポイ捨てはしないという人でも、ポケットからうっかり飴の包み紙を落とすことがあるかもしれません。ごみの分別をしっかりしているという人でも、袋の口の縛りが甘くて回収の際にごみがこぼれることがあるかもしれません。自分が気づかないうちに出したごみが海まで流れていくかもしれない、だから自分にも関係のある問題なのだと考えなければ、ごみの発生を抑制することはできません。加えて、過剰包装という日本特有の問題があります。丁寧に包んでもらうことを当たり前と思わず、すぐごみになるようなものはもらわないよう各自が習慣づけていく必要があります。また、日本の海岸に朝鮮半島や東南アジアからのごみが漂着するのを見て「自分たちは被害者だ」と思う人も多いようですが、同じように日本から出たごみがハワイやアメリカ西海岸に流れ着いていることにも思いを馳せてほしいです。

プラスチックごみに関する日本の取組みについてはいかがでしょうか。

小島さん

世界の中で完全に周回遅れという感じですね。日本政府は今年6月、「レジ袋の無料配布の禁止」を2020年に法制化すると打ち出しましたが、既に世界60カ国以上がレジ袋などの使い捨てプラスチックについて課金するか利用禁止にしています。また国内でも、レジ袋の有料化を実施している自治体やスーパーは10年以上前からあって、持参率が9割を超えているところも数多くあります。さらに、プラスチックごみ問題はレジ袋だけ有料化すれば解決するというわけではありません。一度使ったらごみになるものの中で、まず止めるべきものは何なのか、あるいはすぐに止められるものは何なのか考えることが重要です。レジ袋やストローといった特定のアイテムをやり玉に挙げるのではなく、使い捨てプラスチック全体を減らす方向へ国が積極的に主導していかないと、世の中はなかなか変わらないと思います。

一般社団法人JEAN
海岸に打ち上げられたペットボトル。
波や紫外線で劣化し破片となります。
一般社団法人JEAN

活動における課題についてお聞かせください。

小島さん

ずっと資金難に悩まされています。JEANは活動歴が長く国の委員会にも入れていただいているため、国の補助金などの公的資金を得ていると周囲から誤解されがちですが、実際は1円もいただいたことがなく、活動資金は寄付と民間の助成金でまかなっています。けれども頼みの寄付も税制優遇が適用される法人ではないためそう大きな額にはならず、助成金も活動にかかる実費の一部にしか使えないため、事務所の維持費や人件費に充てるお金を削るしかないのがつらいところです。これまでお金がないということをあまり口にしてきませんでしたが、資金が潤沢にあるという誤解は解きたいので、最近は赤裸々に「お金がない、お金がない」と言っています(笑)。

今後、力を入れていきたい活動などがあればお聞かせください。

一般社団法人JEAN
国分寺のJEANの事務所で取材を受ける小島氏
一般社団法人JEAN

小島さん

JEANでは啓発活動の一環として、いろいろなところで講演、ワークショップ、授業などを行っていますが、できればもっと学校で授業やワークショップを実施したいですね。JEANも活動資金が厳しいため無料でどこへでも行くというわけにはいかないのですが、何か学校側の負担を軽くする方法があれば、私たちが30年間の活動で培ってきた様々なことを、海のごみ問題に興味がある子にもない子にも伝えたいです。また、最近の海ごみのブームで、お問い合わせやご相談をたくさんいただくようになっていますが、一度だけクリーンアップに参加して終わりではなく、この問題に目を向けてくれた人たちが自分も当事者であるという意識を持ち続けてくれることを強く願っています。JEANとしても、どういう背景で海のプラごみ問題が注目されているのかや、清掃やデータを取ることにどんな意味があるのかなどを理解した上でクリーンアップに臨んでいただけるよう、しっかり情報提供やコーディネートを行っていきたいと思います。

東京都国際交流委員会

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