2019年4月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

北区学び場Let’s Study

~日本語を母語としない子どもたちの学習支援と居場所づくりを~

今月のクローズアップは、北区学び場Let’s Studyをご紹介します。北区学び場Let’s Studyは、日本語を母語としない子どもたちへの学習支援を行っているボランティアグループです。学校の勉強の手助けや高校受験のサポートに加え、日本語がうまく話せないために教室で孤立しがちな子どもたちの居場所づくりを目指して、2015年3月から活動を続けています。今回は活動場所である北区NPO・ボランティアぷらざを訪ね、代表の枝澤雅子さん、副代表の鈴木信之さん、そしてグループの主力メンバーである小川郁子さん、三枝裕志さん、高野渉さん、岸野里美さんにお話を伺ってきました。

(後列)岸野氏、高野氏、小川氏、三枝氏
(前列) 枝澤氏、鈴木氏

北区学び場Let’s Study設立の経緯を教えてください。

鈴木さん

現在このグループの代表を務める枝澤さんも、副代表を務める私も、元々、北区内で開催されている大人の日本語教室でボランティアをしていました。その教室に子どもを連れて来る外国人が増えたことから、ボランティアぷらざの主催で北区における外国人の子どもたちの教育をテーマとした連続講座が開催されたのが2014年の秋のこと。そして、このときに講師を務めた一人が、北区の区立中学校の日本語学級の先生だった小川さんです。この講座をきっかけに、日本語を母語としない子どもたちの学習支援を行うボランティアグループを立ち上げる準備が始まり、2015年3月から「北区学び場Let’s Study」の教室がスタートしました。当初は高校受験のサポートも含めて中学生を対象としていたのですが、1年ほど経つと小学生もやって来るようになり、現在は小学3年生から中学3年生までが教室に通ってきています。

現在の活動内容をお聞かせください。

小川さん

毎週日曜の10時から12時まで、王子駅そばにある北区の施設「北とぴあ」4階のボランティアぷらざで、日本語を母語としない子どもたちの学習支援を行っています。北区の小・中学校に通う子どもたちには2年間、週に1~3回日本語学級で日本語を学ぶ機会があるので、こちらでは教科学習をメインにしています。算数、数学、英語など、あまり言葉に頼らない教科から始めますが、中には日本語がほとんどできない子どももいるので、そうした場合は日本語の勉強を優先します。教室には親が外国人だけれど、本人は日本生まれの日本育ちという子どもたちも来ています。家庭内言語が日本語ではない環境で育った子どもは、やはり語彙不足という問題を抱えていることが多いですね。算数などの積み上げが必要な教科が途中でわからなくなってしまっている子どもについては、みんなに追いつけるようサポートします。また、冬休み前には書初めの練習、春には卒業を祝う会など、年に数回はスペシャルな活動も行っています。定例の教室以外に、中学3年生の受験勉強を手伝う教室や、夏休みの宿題を片づけるための教室を開いていたこともありました。

日曜の午前中に教室に通ってくるのは、
真面目でしっかりした子どもたちです。
© Kitaku Manabiba Let’s Study

小学生の学習支援の様子。
© Kitaku Manabiba Let’s Study

教室で学ぶ子どもたちや支援するボランティアの数は増えているのでしょうか。

枝澤さん

教室がスタートした2015年度は、延べ人数で学習者が372人、支援者が469人。3年目の2017年度には、学習者が970人、支援者が578人まで伸びました。2018年度はさらに増えていると思います。学習者については、学校の担任やスクールソーシャルワーカーの紹介で来るほか、大人の日本語教室に通う親の希望で通い始める子どもや、ここに通っている友だちに連れられて来る子もいます。ボランティアについては、平日は仕事があるけれど週末なら活動できるという人が多いですね。また最近は、初めてボランティアをするという高校生が参加することも増えました。現役高校生は、小学校・中学校の勉強についての記憶が新しくスムーズに教えることができますし、憧れの高校生活の話をしてくれる相手として子どもたちも喜んでいるようです。最近は外国にルーツを持つ高校生がボランティアに来てくれることもあり、この教室の子どもたちが成長した姿を見たような気持になります。実際に、ここの卒業生が来てくれたことも何回かありましたね。

書道の先生と書初めの練習をします。
漢字を使わない国の子どもは四苦八苦です。
© Kitaku Manabiba Let’s Study

教室が終わった後の反省会。
情報交換や次の方針について話し合います。
© Kitaku Manabiba Let’s Study

子どもたちの支援をするにあたって留意していることをお聞かせください。

高野さん

私は中学生を担当していますが、中学校に上がると子ども同士の関係が複雑になり、日本語が母語でない子どもはコミュニケーションの輪から外れて、クラスで孤立してしまうことも珍しくないようです。ここではいつも賑やかな子どもたちから「学校では一度も口をきかないまま下校する」などという話を聞くと、彼らにとってこのボランティアの教室が、同じ境遇の子どもと自分の母語で自由に話せる場であることがとても重要だと痛感します。学びの場であるとともに、子どもたちが自分の居場所だと感じられるような環境づくりを心がけています。

三枝さん

私は小学校高学年の子どもたちを担当していますが、やはり中学生と同じように、学校には自分の居場所がないと感じている子どもが多いですね。とはいえまだ小学生なので、やんちゃな子たちがたくさんいて、どうやって席に座らせて勉強させようかと毎回奮闘しています。また、勉強ばかりでなく、周りの子どもとおしゃべりを楽しんだりもしてほしいと考えています。学校ではなかなか友だちができない子どもたちに、「ここに来れば楽しく過ごせる」と思ってもらいたいですね。

岸野さん

この教室に来ている子どもたちの中には、問題をすらすら解いているように見えて実はただ丸暗記していたり、単語の意味を知らないまま使っていたりする子もいます。そのため、本当に理解ができているのかどうか、子どもたちとできるだけ密にコミュニケーションを取りながら進めていくことが大切だと考えています。また、この教室で教え方もキャラクターも異なるさまざまな支援者たちと触れ合うことが、子どもたちのコミュニケーション能力の向上に役立ってくれたら、と願っています。

支援している子どもたちについて、気がかりに感じていることを教えてください。

枝澤さん

幼い頃に日本に来た、あるいは日本で生まれ育ったことで、母語と日本語のどちらも中途半端になってしまった子どもたちの問題は深刻です。日本語の生活言語は話せても学習言語が不足している子どもにどうやって勉強を教えればいいのかも大きな問題ですが、さらに深刻なのは、子どもたちが母語を忘れていくにつれ、自分の親とのコミュニケーションが成り立たなくなってくるということです。アイデンティティの喪失につながるこの問題を多くの子どもたちが抱えていることに驚かされますね。

小川さん

日本語を母語としない子どもたちにとって大きな壁となるのは、やはり高校進学です。外国人を対象とした入学試験は対象が限定され、 競争率が高く、日本人と同じ5教科の試験を受ける子どもも多いですが、これを突破するというのは本当に大変なことなんです。この教室に通う子どもたちが高い能力を持っていることを私たちは知っています。でも、彼らが本来持っている能力に相応する高校には合格できないという厳しい現実があるのです。制度設計の問題ですが、本当に残念に思いますね。

活動における課題についてお聞かせください。

枝澤さん

ボランティアが常に足りない上になかなか定着しないことが悩みの種です。社会人は転勤、学生は受験や就職など、生活の変化とともに来られなくなってしまう人が多いですね。細くても長く続けてくれると、すべきことも子どもたちのことも良くわかってくるのでとても助かるのですが…。

小川さん

活動場所の問題もありますね。毎回20名ほどの児童・生徒と15名ほどのボランティアが集まるのですが、これ以上増えると現在の会場での運営は難しいと思います。また、今は教室をひとつ運営するだけで精一杯ですが、広い北区の中で拠点が王子1カ所というのも厳しいですね。支援を必要とする子どもたちが気軽に教室に通えるよう、北区内のほかの地域にも拠点を増やしていくことが出来たらいいですね。

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