2018年11月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

すみだ日本語教育支援の会

~地域ぐるみで外国人介護人材の育成を~

今月のクローズアップは、「すみだ日本語教育支援の会」をご紹介します。介護スタッフとして働く在住外国人のための日本語教室を開催する同会では、これまでに約120名の外国人に介護の現場で役立つ日本語を指導してきました。現在は墨田区の委託事業となっているため、受講料は無料。介護福祉士の資格を取得した受講生もおり、社会福祉法人、大学、住民ボランティア、行政が連携して地域の外国人介護人材を育成する取組みは、「すみだモデル」として注目を浴びています。今回は、地元の社会福祉法人賛育会が運営する介護施設の施設長で「すみだ日本語教育支援の会」の副会長を務める羽生隆司さんと、同会の日本語教室で講師を務める宇津木晶さんにお話を伺いました。

日本語講師の宇津木晶氏(左)と
副会長の羽生隆司氏(右)

「すみだ日本語教育支援の会」設立の経緯を教えてください。

羽生さん

2005年、私が施設長を務めていた賛育会の特別養護老人ホームで、日本人職員の確保に悩んだ末に、ホームヘルパー2級の資格を持つフィリピン人女性4人を採用したことがそもそもの始まりです。日本人の配偶者で在住歴が長く、日常会話にはほぼ問題がない彼女たちも、いざ介護の現場に入ると思うように話が通じない。彼女たちの日本語能力を把握し、それに合わせたコミュニケ―ションをとれるようになるまで、互いにだいぶ苦労しました。それでも、天性の明るさや“敬老マインド”を持った彼女たちの働きぶりは申し分なく、もっと幅広い仕事を任せられるようになってほしいと思わせてくれました。そして、そのために必要な日本語を学ぶ方策を模索していたときに協力を申し出てくれたのが、早稲田大学大学院日本語教育研究科の宮崎里司教授です。宮崎教授のコーディネートで、介護の現場で役立つ日本語を教える教室の開講が決まり、さらに墨田区役所の担当課の紹介で、定年退職した住民のボランティアグループ「NPO法人てーねん・どすこい倶楽部」のメンバーが補助講師として参加してくれることになりました。こうして2008年8月、「すみだ日本語教育支援の会」の活動がスタートしたのです。

毎週金曜日、墨田区横川の集会場で
開催されている日本語教室。
©Sumida Japanese-language education Support

てーねん・どすこい倶楽部のボランティアが
受講生をサポートします。
©Sumida Japanese-language education Support

「すみだ日本語教育支援の会」の日本語教室について詳しく教えてください。

宇津木さん

毎週金曜日の14時から19時半まで、墨田区内及び近隣に在住・在勤の外国人で介護の仕事をしている人、もしくは介護の仕事に興味がある人を対象として日本語の指導を行っています。受講生は日本人の家族を持ち日本で長く暮らしている女性たち。在住歴は短くても10年、長い人になると20~30年に及びます。既に介護職に従事しており、日本語の読み書きを学ぶ必要に迫られてやって来る人がほとんどです。補助的な作業だけでなく、様々な仕事を任せてもらえるようになるには、まずは記録を読んだり書いたりできる日本語能力を身につけなければなりません。もちろんさらにその先、介護福祉士の国家試験を目指して頑張っている人たちもいます。授業で学ぶのは、介護の仕事に必要な漢字、記録の作成や国家試験の問題文の読み方など。指導するのは2名の日本語講師ですが、各々のレベルや学習のスピード、授業に参加できる時間などがまちまちなため、「てーねん・どすこい倶楽部」の方たちに、受講生一人ひとりを補助してもらっています。

介護福祉士国家試験1次試験合格者を
対象とした2次試験対策講座の様子。
©Sumida Japanese-language education Support

実技試験に向けて
基本的な実技や声かけを学びました。
©Sumida Japanese-language education Support

介護の日本語の指導を続けて来られて、今、どんな感想をお持ちですか。

宇津木さん

指導を始めた当初は、「自分たちが持っている日本語の知識でもって指導をしてあげる」という気持ちでいたような気がします。しかし、私たち日本語講師も、「てーねん・どすこい倶楽部」の補助講師たちも、介護に関してはまったくの素人。一方、受講生の皆さんは日本語の読み書きは不得手ですが、実際に介護の現場でどんなことをし、どんなやりとりが発生するかということを知っています。気づけば私たちが一方的に教える立場にあるのではなく、「現場ではこんなやり方をするんだよ」「それなら、こう言えばいいんじゃないかな」というように、受講生たちと情報を提供し合い、教え合う関係になっていました。私たちがここまで活動を続けて来られたのは、こうして互いに補い合う関係をうまく築けたからではないかと思います。

会の結成から10年、介護職を希望する外国人をめぐる環境に変化はありましたか。

羽生さん

介護の現場で働く外国人が珍しかった時代を思うと、ずいぶんと変わりましたね。日本人の配偶者などの定住者のほか、EPA(経済連携協定)でやって来る介護福祉士候補者、昨年9月にスタートした「介護」の在留資格取得を目指して介護福祉士養成課程のある専門学校や大学で学ぶ留学生、昨年11月に追加された介護職の外国人技能実習制度で来日する実習生と、介護の世界に様々なルートで外国人が入ってくるようになりました。その数はまだ多くはありませんが、果たしてこうした外国人がみな一定の日本語能力を身につけ、介護の現場で活躍できるようになるのか。現場任せにするのではなく、国としてどういう理念で受け入れ、どういう仕組みづくりをしていくのか、きちんと考えてほしいと思います。

活動における課題はありますか。

羽生さん

長く活動を継続していくために、いかにして受講生を増やしていくか、また、介護福祉士国家試験の合格者を増やしていくか、というところですね。当会ではこれまでに3名の合格者を出していますが、国家試験で使われる言葉は介護の現場で使われる言葉と異なり、日本語を母語としない人が合格するのは大変なことです。我々は活動を開始した翌年から試験問題にふりがなを振るよう要望書を出し続け、6年かけて実現にこぎつけました。また、当会の日本語講師たちが実際の試験の問題文を元に、言葉や言い回しをこのように変えれば外国人に理解しやすくなるという提案を行ったこともあり、それは現在の介護福祉士の試験問題に反映されています。さらに今働きかけを行っているのは、試験時間を1.5倍に延長してもらうこと。介護福祉士専門学校に協力してもらいながら、試験時間の延長で得られる効果のエビデンスを集めているところです。

宇津木さん

EPAの介護福祉士候補者に認められている試験時間の延長が、なかなか在住外国人に認められないのは残念ですね。同じ外国人でも、国が主導した制度で来日し手厚く日本語と介護の指導を受けられる人たちと、在住歴が長いゆえに自分の力で何とかしなければならない人たちとに二極化してしまっているのが現状です。日本で地域住民の一人として暮らし、働いて納税もしている人たちへの配慮がもう少しあってもいいのではないかと思います。

日本語教室の受講生が結成したボランティアグループがあるそうですね。

羽生さん

2016年、介護福祉士の資格を取得した卒業生を中心として「アボット・カマイ」というボランティアグループが結成されました。「色々な人に助けられた分、お返しをしたい」と、福祉施設で歌や踊りを披露するなどの活動をしています。英語とタガログ語を話せる彼女たちは、その語学力を活かして2020年のオリンピック・パラリンピックでも活躍できるはずです。彼女たちが様々な活動を通して、もっともっと地域に溶け込んでいけるよう、我々も積極的にサポートしていきたいと思っています。

「東京五輪音頭2020」の踊りを習う
「アボット・カマイ」のメンバー。
©Sumida Japanese-language education Support

国家試験に関する陳情を厚生労働大臣へ。
大切なソーシャルアクションです。
©Sumida Japanese-language education Support

最後にメッセージをお願いします。

羽生さん

社会福祉法人、大学、住民ボランティア、行政が連携して地域の外国人介護人材を育成する「すみだモデル」のポイントは、日本語の指導を受ける受講生だけでなく、関わる全ての人が受益者というところにあります。この事業を通して、賛育会は地域貢献の、「てーねん・どすこい倶楽部」は社会参加の貴重な機会を得ることができている。そして、日本語講師の先生方は、今や“介護の日本語”の先駆者となって活躍しています。各々が果実を得られるからこそ、この事業は10年続いてきたのだと思います。ぜひ多くの方にご覧いただき、ほかの地域でも取り入れていただけたら嬉しいですね。

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