2018年7月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

NPOアジア人文文化交流促進協会

~多様性を活かした「文化共生」を実現して、誰もが暮らしやすい社会を~

今月のクローズアップでは、NPOアジア人文文化交流促進協会(JII)をご紹介します。JIIは、多様性を活かした「文化共生」の実現を目指し、主に日本で暮らす外国人に向けた様々な支援事業を行っているNPOです。代表理事の楊淼(ヤンミャオ)さんは約20年前に中国から留学生として来日、大学卒業後に日本企業でキャリアを重ねながら、このNPOを立ち上げました。異なる文化と出会ったとき、「違う」ということにフォーカスするのではなく、「私たちは同じ人間である」という前提に立つことこそが文化共生を可能にする、と語る楊さんに、JII設立の経緯と活動の詳細について伺いました。

NPOアジア人文文化交流協会
代表理事の楊 淼さん

NPOアジア人文文化交流促進協会設立の経緯をお聞かせください。

楊さん

日本の人事系コンサルティング会社で働く傍ら、日中両国の企業トップや政治家が経済・文化について交流や意見交換を行う専門会議の事務局兼通訳を務めていたときのことです。中国で反日デモが盛んだった時期にも関わらず、両国の参加者たちが古くからの友人として接し続けている姿を目にして、「人と人との本当の関係は、顔を合わせ話をしてこそ育つ」ということに気づかされました。そこから、日本へやって来る中国人が生の日本人と交流し、直に日本人の暮らしを体験できる機会を提供したいと考えるようになり、2010年にこのNPOを立ち上げたのです。設立から数年間は会社勤めとNPOの活動を両立させていましたが、出産と子育てを経験したことで、ビジネス社会中心の目線が社会全体に移り、自分と同じような悩みを抱える在住外国人をサポートしたいと思うようになりました。そこで2016年末に退職、NPOの活動に専念することとし、活動の内容もより社会に大きなインパクトを与えられるようなものへと変えていくことにしたのです。

HPリニューアルに伴い制作したトップ画像とロゴ。
画家・イラストレーターの今中信一氏によるもの。
© Japan Intercultural Intelligence.

JIIが目指す温かく個性豊かな世界が
見事に表現されています。
© Japan Intercultural Intelligence.

現在行われている主な活動を教えてください。

楊さん

活動には3つの軸があり、1つめが在住外国人向けの相談・情報発信事業、2つめが留学生のキャリア支援事業、3つめが子どもたちの「文化共生力」を養う「場」を提供する事業です。一見ばらばらに見える3つの事業ですが、在住外国人の大きな予備軍である「留学生」に対する仕事面(定住の前提)への支援をし、そしてその中で定住者となった方々がもっとも困る子育てや医療といった暮らしへの支援をし、さらに、未来の社会の基礎作りのために、すべての子どもに「文化共生力」を高める機会を提供するという、まさに日本で暮らす外国人のライフサイクルに合わせた支援の集合体となっています。

異なるバックグラウンドを持つ子どもたちが
中国語で楽しく遊ぶ「シーヤンヤンクラブ」。
© Japan Intercultural Intelligence.

日本語は使用せず、五感をフルに使って
コミュニケーションをとります。
© Japan Intercultural Intelligence.

1つめの相談・情報発信事業には「総合相談」と「専門家相談」の2種類があり、総合相談では相談者の課題や状況に合った的確なアドバイスをし、最も良い解決策を探していくことを目指しています。保育園と幼稚園のどちらに通わせればいいのか、子どもの学校をどう選べばいいのか、習い事は何をさせたらいいのか、保育園の先生に不満があったときはどうすればいいのか…。こういった問題には正解がなく、最終的にどのような選択をするかはその人次第です。ただし、外国人の場合は、自国の発想や解決の仕方で行動してしまうと、予期せぬ結果を招いてしまうケースは多々あります。私たちに相談していただければ、判断の材料となる情報を提供できますし、不必要なリスクを避け、不安や迷いが少しでも解消するように一緒に考えていくこともできます。また、より複雑で専門性の高い相談に関しては、JIIが最適な専門家をご紹介する専門家相談もあります。相談内容に合致した専門家であることはもちろん、相談者との相性も考慮してご紹介するようにしているので、ぜひご利用いただきたいです。

JIIの相談事業の特色とは何でしょうか。

楊さん

子育てや医療に関する相談などは本当にケースバイケースで、一律に答えを出すということができません。行政の相談サービスも近年かなり充実してきましたが、それぞれの家庭の事情や価値観の違いなど、行政では拾えないような細かな部分もフォローしながら対応できるのが私たちの強みだと思います。JIIの相談は有料ですが、それは責任を持って長くサポートをしていきたいから。たとえば留学生として来日し、社会人となり、結婚して家庭を持ち、子育てをする。その人のライフステージの変化とともに、その都度どんな選択をするかを一緒に考え、共に歩んでいく。その意思確認を互いにするという意味で、少し費用をご負担いただくことにしているのです。

留学生のキャリア支援事業についてもお聞かせください。

楊さん

長く、かつ自分らしく働ける職場を見つけられるかどうかは、日本での就職を希望する外国人留学生にとって、とても大きな問題です。外国人留学生の日本での就職率はまだまだ低く、定着率となるとさらに落ち込みます。留学生と日本企業の間で、外国人人材をどう位置づけ何を期待するかについて、かなりの割合でミスマッチが起きているのが現状なのです。そこでJIIでは、留学生の就活のサポートから入社後の定着フォローまでを行うMIKATAというトータルキャリアサポートサービスを今年からスタートさせました。同時に日本企業に対しても、外国人人材の活用について様々な提案をしていこうと考えています。労働人口減の時代のニーズとして外国人を採用する企業は増えていますが、外国人社員が十分に能力を発揮して、本人と企業の双方が満足できているというケースはまだ非常に少ないです。外国人社員にどんな仕事を与えるか、日本人社員が彼らとどう向き合うか、マネジメントや評価のあり方など、企業の方も自己変革を迫られていると思います。

留学生就職支援プログラム「MIKATA」を紹介するチラシ。
© Japan Intercultural Intelligence.

外国人社員に力を発揮してもらうためには、どのようなことが必要でしょうか。

楊さん

海外で生産した商品を現地で売る時代となった今、外国人社員は、例えば、現地のマーケットや消費者の特性にあったマーケティングのリードや、日本のものやサービスを現地仕様に「変換」・「リメイク」して売るというプロセスにおいて、日本人社員にない発想の実現や新しいチャネルの獲得など、様々な役割を担う人材になり得ます。新しい発想でイノベーションを起こすことに苦労している日本企業にとって大切なのは、その存在自体がイノベーターである外国人社員を日本人化させ過ぎず、外国人ならではの特性を活かして活躍できるようにしていくことだと思います。外国人のために何かをするというのではなく、異なる要素を持った人間を組織の中でどう活かすか。そこが企業の勝負どころになってくると思います。外国人が働きやすい職場というのは、実は女性にとっても、障がい者にとっても働きやすい職場です。日本文化の中で育つと、同じがいい、同じが安心となりがちですが、多様性を尊重して活かすということは、実は多くの人にメリットがあるのです。誰かのために自分を変えるのではなく、相手の文化、相手が持つ「違い」を面白いと楽しむことができる、それもいいかもと思える。JIIが理念として掲げている「文化共生」とは、まさにそういうことなのです。

「文化共生力」を養う場づくりとしては、どんなことを行われているのですか。

楊さん

「シーヤンヤンクラブ」という、子どもを対象にした中国語で遊ぶイベントを開催しています。両親が中国人、中国人と日本人のハーフ、両親ともに日本人と、異なるバックグラウンドを持つ子どもたちが一緒に遊んだり学んだりするこのプログラムは、予想を上回 る反響をいただいているため、今後も定期的に開催していく予定です。こうした「文化共生力」を養う場を作ろうと考えたのには、上海で前職である人事系コンサルティング会社の現地法人立上げの仕事をしていたときの体験があります。多くの日本人ビジネスマンが現地の文化に対してオープンな姿勢で受け入れることができず、日本人同士で固まったり、現地従業員から孤立され、中には精神的に病んでしまうケースも少なくない状況を目の当たりにして、異なるバックグラウンドを持つ相手との向き合い方やコミュニケーション力は大人になる前にもっと意識して育むべきだと痛感したのです。できるだけ自然に、そして楽しく、子どもたちが「自分と違う人たち」に接する機会を設けたいと考えています。

シーヤンヤンクラブでは絵本のほか、
動画、手作り紙芝居なども使用します。
© Japan Intercultural Intelligence.

国や文化を区別する意識は
子どもたちにはありません。
© Japan Intercultural Intelligence.

今後の活動の展開について教えてください。

楊さん

わざわざ予約をして個別相談するほどではないけれど、ちょっと気がかりなことがあるという方たちに気軽に足を運んでいただけるよう、相談会を開催していく予定です。小児科の先生や児童心理カウンセラーなどの専門家たちにもご協力いただき、先生の話を聞きながら、ちょっとした困り事相談もできるといった場を作りたいと考えています。そして、今年もうひとつ実現させたいと思っているのは、「プレイバックシアター」の公演です。プレイバックシアターとは、即興劇を通じて個人の体験をその場にいる人たちで分かち合うという手法で、いじめ防止や子育て支援、差別防止など様々な分野で取り入れられています。プレイバックシアターを活用して、たとえば、外国人やハーフの子どもたちが増えている保育園の先生や、そこに通っている子どもの親御さんたちなどに、多様な文化や価値観を持つ人との接し方を考える機会を提供することで、日本に暮らしている外国にルーツを持つ家庭が感じている様々な気持ちや悩みを日本社会にもっと理解してもらい、みんなにとって子育てしやすい社会を考えるヒントになればと思っています。そして、留学生キャリア支援の方では、もっと多くの企業に対して、留学生採用・定着サービスMIKATAの導入を積極的に働きかけていこうと考えています。

東京都国際交流委員会

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