2018年5月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

NPO 日本文化体験交流塾(IJCEE)

~高い語学力を持つ通訳案内士が日本文化体験を提供する~

今月のクローズアップは、NPO日本文化体験交流塾(IJCEE)をご紹介します。IJCEEは、通訳案内士約1,500名を擁する日本最大の通訳案内士団体です。高い語学力を持つ通訳案内士が日本文化体験の講師を兼ねるという仕組みを生み出したことで、2008年の団体設立以来、右肩上がりの成長を続けてきました。外国人旅行者のニーズが多様化し、日本文化に触れる体験型観光が注目を集める中、IJCEEはその存在感をよりいっそう増しています。今回は、団体の設立者でもある米原亮三理事長に、IJCEEの事業内容や通訳案内士業界の動向についてお話をうかがってきました。

理事長の米原亮三氏。
日本文化体験用に作られた和室「芝交流庵」にて。

団体設立に踏み出した根底には、東京都の職員だったときの経験があるそうですね。

米原さん

東京都庁在職中、国際部、観光部、東京ビックサイトなどの仕事に携わるなかで、外国人に日本の魅力を伝えるプログラムが足りないと痛感したことが、NPO設立のきっかけとなりました。大型バスでの都内観光や富士山、箱根などを回る外国人向け観光コースはあるものの、「より東京を知りたい、日本の文化を体験したい」という外国人の受入れメニューが不足している。しかし、体験型観光の必要性を訴えても、「東京には京都のような景観がない、担い手がいない」などの理由でなかなか実現しない。そこで2008年に都庁を早期退職し、国際的に活躍できる人材の育成と文化体験プログラムの提供を目指してNPOを立ち上げたのです。2008年の設立から10年、IJCEEは会員約1,700名、うち通訳案内士約1,500名という日本最大の通訳案内士団体に成長しました。日本文化をわかりやすく外国人に伝えることで、「何度でも訪問したくなる国」と言ってくれるような日本のファンを増やすこと。外国人に評価されることによって、日本人自身も自国の文化に興味と自信を抱き、それが日本文化のさらなる発展と創造につながること。IJCEEは、この2つを目指して活動を続けています。

ガイドデビューを目指す新人研修
©IJCEE

神社で手水の作法を説明するガイド
©IJCEE

IJCEEの主な活動内容を教えてください。

米原さん

IJCEEでは、優秀な通訳ガイドを養成するために、多彩な研修プログラムを実施しています。通訳案内士試験合格後、ガイドとしてデビューするために必要なスキルや知識を学ぶ「新人研修」。築地のまち歩きや相撲の見学のガイドとして活躍するために必要な知識を学ぶ「ガイド研修」。そして、茶道のガイドや寿司づくり体験の講師を養成する「日本文化研修」。これらの研修では、IJCEEに所属する一流の講師陣が、豊富な現場経験から生まれたオリジナル教材を用いてトップガイドへの成長をサポートします。また、2013年には、グループ会社であるTrue Japan Tour株式会社を設立、多様な日本文化体験プログラムを開発・運営し、日本の様々な魅力を発信しています。

日本文化と語学の両方に精通する人材の育成に力を入れているそうですね。

米原さん

語学が堪能なだけでなく、茶道、着付け、書道、華道、寿司づくりといった日本文化に詳しい通訳案内士がIJCEEには多数います。通訳案内士に日本文化を学ぶ研修を実施することで、茶道のお点前をしつつ英語で説明するといった「一人二役」を可能とする。IJCEEはこのスキームを生み出したことで、茶道の講師と通訳案内士のふたりを雇うためかなり割高になってしまうという、従来の日本文化体験プログラムの問題点を解決したのです。また、通訳ガイドの仕事には、築地市場の見学や相撲観戦など数時間のガイドを務める「ショートガイド」と、成田空港への出迎えから関西空港への見送りまで、全行程1~2週間のガイドを務める「スルーガイド」の二種類がありますが、スルーガイドを担えるレベルに達するには、様々な国籍の旅行者からどんな質問を受けても答えられるだけの幅広い知識を身につけなければなりません。そのためにはまず、自分の得意とする分野を作り、ショートガイドをたくさん経験して自信をつけていくことが必要となります。通訳案内士が新たなスキルを身につけガイドとしてステップアップしていくために、IJCEEは様々な研修を実施しているのです。

相撲部屋の朝稽古を見学。
相撲の伝統や見学のマナーも伝えます。
©IJCEE

寿司づくりを体験。
握り寿司、巻き寿司、ちらし寿司を作ります。
©IJCEE

今年の1月、新たな通訳ガイド制度が施行されたそうですね。

米原さん

これまで有償で外国語で旅行に関する案内をできるのは「通訳案内士」の国家資格保有者に限られていましたが、今後は資格がなくても行えるようになりました。この背景には、外国人旅行者の増加に伴い通訳ガイドが不足していることのほか、クルーズ船の乗船アシストをするガイドや自然を案内するネイチャーガイドにも通訳案内士の資格が求められるといった、実情にそぐわない面を是正する目的もありました。通訳案内士は今後「全国通訳案内士」となり、新たに地域限定で活動する通訳ガイドのための資格制度「地域通訳案内士」がスタートしました。また、通訳案内士の質を向上させるため、試験科目に実務項目を追加したり、全国通訳案内士の有資格者に定期的な研修の受講を義務付けるなどの変更も行われました。ただ、どのような制度設計をしようとも、本物のプロと呼べる通訳ガイドを育てるのは、シビアな目を持つお客様だということに変わりはありません。IJCEEとしては制度改正に対応しつつ、「有資格者に頼めば間違いなく質の高いサービスが受けられる」と思ってもらえるような優秀なガイドを育成し、「通訳案内士」というブランドの価値を向上させていくことを目指します。

着物の着付けも通訳ガイドが行います。
©IJCEE

浴衣を着て和室でお茶を体験します。
©IJCEE

活動における課題についてお聞かせください。

米原さん

当団体の会員である通訳案内士の皆さんに、もっと多くの仕事の機会を提供できるようにしていかなければと思っています。特に通訳案内士にとって最大の問題となるのは、オフシーズンにも一定量の仕事があるかどうかということです。繁忙期は忙しくても、オフ期になると仕事がまるでなくなってしまうようでは、いくら素晴らしい仕事でも、生計を立てる仕事として続けていくことはできません。オフシーズン対策は通訳ガイド業界だけでなく、日本の観光産業全体にとっても大きな課題となっています。夏のスキー場や冬の海水浴場にどうやって集客するか、通年で安定した来訪者を維持し、観光産業に携わる人たちの雇用を安定させられるような方策を考えていかなければなりません。そして、もうひとつ日本の観光産業の問題点として、飲食店や土産物店の従業員の語学力不足が挙げられます。IJCEEではこの問題を解決するために、通訳案内士を講師とした英語教室を観光客が少ないオフシーズンに実施できないかと考えています。実際に現場で外国人旅行者とやりとりする人たちにとって役立つのは、いわゆる学校英語ではなく、通訳案内士が使う生きた英語のはずですから。

今後の活動の展開について教えてください。

米原さん

「文化体験プログラムを定着させて、日本に何度も来てくれるリピーターを作る」という目標は、今後も変わりません。2019年はラグビーワールドカップ、そして2020年にはオリンピック・パラリンピックが控えています。観戦にやってきた外国人が試合の合間にプログラムに参加し、「今度はまた別の文化体験をしてみたいから、もう一度日本に行こう」と言ってくれる。そんな魅力的な体験プログラムを提供していきたいと思っています。さらに言うならば、2020年の東京オリンピックの熱が冷めた後も、繰り返し日本を訪問してくれる外国人を増やすこと。これがIJCEEの使命だと考えています。オリンピック後の2022年にどれだけの外国人が日本を訪れてくれるか。我々はそこを見据えて活動を展開していきます。

東京都国際交流委員会

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