2018年3月号


毎月1回ウェブ版ニュースレター「れすぱす」を配信しています。L'ESPACE(れすぱす)は、場所・空間・宇宙・間隔と、多岐にわたる意味をそなえたフランス語です。

ルビ入りクローズアップ バックナンバー

特定非営利活動法人クロスフィールズ

~日本企業の社員が新興国で現地の課題解決に挑む「留職」プログラム~

今月のクローズアップは、特定非営利活動法人クロスフィールズをご紹介します。日本企業の社員を新興国の社会課題の現場に派遣する「留職」プログラムを展開しているクロスフィールズ。留職プログラムの参加者は本業で培ったスキルを活かしながら、現地社会が抱える課題の解決に挑みます。留職プログラムがスタートしてから、約7年。「留職者」を送り出す日本企業にも、彼らを受け入れる新興国の社会課題の現場にも大きなインパクトをもたらすこのプログラムへの関心はますます高まっています。今回は、クロスフィールズの共同創業者である松島由佳さんと、プロジェクトマネージャーの北川智子さんにお話を伺いました。

共同創業者・副代表の松島由佳さん(右)と、
プロジェクトマネージャーの北川智子さん(左)

クロスフィールズ設立の経緯を教えてください。

松島さん

クロスフィールズを設立したのは、今からおよそ7年前の2011年5月です。団体設立へと至った背景には、ちょうどその頃、「プロボノ」と呼ばれる活動が注目され始めていたことがありました。プロボノとは、社会人が自分の知識やスキルを活かしてNPO等の非営利組織をサポートするボランティア活動のことです。ビジネスパーソンが活動に参加することは、ソーシャルセクターにとって大きな意味を持つだけでなく、本人にとっても自身のキャリアや人生にプラスとなる様々な経験を積むことにつながります。そこで私たちは、「企業に勤めている人が一定期間本業を離れ、その期間新興国の社会課題の現場で働く」というプログラムを作り、企業の人事に人材育成の一環として導入してもらおうと考えたのです。当時、プロボノを促進する団体はありましたが、それはあくまでもプライベートの時間にNPOの活動に参加するということであり、「海外の社会課題の現場でフルタイムで働く」という形でコーディネートしているところはありませんでした。そこで現在代表を務める小沼大地と私が共同創業者となり、クロスフィールズを立ち上げたのです。

インドネシアで農村部の雇用創出と
生活向上に貢献する食品メーカーの研究者。
©クロスフィールズ

留職者第一号。ベトナムでソーラー調理器具の
製造コスト削減をした電機メーカー社員。
©クロスフィールズ

主な活動内容を教えてください。

松島さん

日本企業の社員を新興国で社会課題解決に取り組む団体に派遣する「留職プログラム」がメインの活動となっています。「留職者」は3カ月~半年ほど自分の仕事を離れ、アジアの新興国で社会課題に取り組む現地のNPOや社会的企業の人たちとともに働くこととなります。このプログラムのポイントは、単なるボランティアではなく、本業で培ったスキルを活かしてよりプロフェッショナルな仕事をしていただくというところにあります。たとえばIT企業のエンジニアならば、実際にシステム開発に携わるなど、日本のビジネススキルを使って現地の団体に貢献してもらうのです。これまで35社の日本企業に留職プログラムを導入していただき、135名の留職者をアジア10カ国に派遣してきました。創業当初は、プログラムを導入してくださる企業を探すのにとても苦労したのですが、今はありがたいことに、企業の方からお問い合わせをいただくことも多くなっています。

インドネシアの医療系NPOで医療廃棄物処理の
オペレーションに取り組む医療メーカー社員。
©クロスフィールズ

インドの医療系機関で遠隔診療効率化に
取り組む電機メーカーのエンジニア。
©クロスフィールズ

日本企業にとって、留職プログラムの導入にはどんなメリットがあるのでしょうか。

松島さん

企業がグローバルにビジネスを展開する際にリーダーとなり得るような人材を育成できる、というところが一番大きいと思います。アジアの新興国は日本企業にとって身近で成長が期待できるマーケットですから、そこでしっかりゴールを描き周囲を巻き込みながら働ける人を育てたいと考える企業は多いですね。また、現地ではどんな生活をしていて、どんなことに困っているのかといった事業アイデアの種となりそうな現地のニーズを留職者が肌で感じてくることを狙っている企業もあるかと思います。さらに、様々な経験をした留職者が組織に風穴を開け、周りの社員のモチベーション向上につながることも、このプログラムの導入で得られる効果のひとつです。たとえば、日本の大企業で働いているとなかなか見えにくい「仕事の意義」や「会社の存在理由」といったところが、新興国の小さな組織で働くとダイレクトに見えてくることがあります。自分の仕事が何の役に立ち、誰を笑顔にしているかを実感した留職者が、その想いを他の社員と共有して社内を活性化していくというようなことが起きるのです。

派遣先の選定はどのように行われるのですか。

北川さん

留職候補者のスキルや経験と、派遣元の日本企業のニーズに応じて、派遣先の団体と業務内容を選定しています。現地の団体から「こういうところを支援してほしい」「こういったスキルをもった人材が必要」といった具体的なニーズを聞き、留職者に何が求められているか、現地で何をすべきかを明確にした上でマッチングを行います。派遣前には、この留職者の方ならこんなことができるのではないかということをきちんとディスカッションします。もちろん、現地に行ってみると事情が違ったということもありますが、留職者が現地のチームメイトたちと協力しながら業務を進めていけるよう、現地活動開始後1週間は同行してサポートしたり、それ以降も週次のテレビ会議でコーチングセッションの場を持つなど、私達もしっかりとフォローします。現場のITシステムを構築するなど、留職者が持続可能なインパクトを残していくことから、現地の団体からも「来てもらって本当によかった」という声を多数いただいています。また創業当初は、各国で知り合いを通して派遣先候補団体を紹介してもらっていたのですが、今では英語版のウェブサイトを見た現地の団体からお問い合わせをいただくことも多くなってきました。

派遣基準はあるのですか。

松島さん

数か月間で現地にしっかりと貢献しなければならないので、そのためのビジネススキルや英語力は求めます。英語力はTOEIC等のスコアよりも、面談で英語の質疑応答をした際に、自分の言いたいことをあきらめずに伝えようという意欲があったかどうかを重視します。また、日本とは異なる厳しい環境でも、ひとりで何とかしようというマインドセットがあるか、自分を律して仕事をしていく責任感があるかという点も重要ですね。そして何より大切なのが、「会社に行けと言われたから」ではなく、本人に「行きたい」という意思があるかどうかということです。

カンボジアで貧困層の自立支援のために
ITツール活用を推進したIT企業のエンジニア。
©クロスフィールズ

インドネシアの企業と日本のNPOが協働する
障がい者雇用支援プロジェクトのイベント。
©クロスフィールズ

こんな留職の成果を目の当たりにした、というエピソードがあれば教えてください。

北川さん

私が初めて担当した留職者は、入社4年目くらいの女性研究者の方だったのですが、ごみのリサイクリングをしているインドネシアの社会的企業で3カ月間、全力で色々なことにチャレンジされました。そして、現地の人たちがごみの分別をしっかりできるようなメソッドを自身のアイデアで作り上げ、派遣先に託してきたのです。ひとりで大きなインパクトを持つ仕事を成し遂げた経験は、この方にとって大きな自信となり、帰国後に社内活性化のための若手社員のグループを立ち上げるに至りました。派遣先で理想のリーダーに出会ったことも、大きな刺激となったようです。

松島さん

元々研究職だった方が、留職を経験後、会社の海外進出を引っ張るようになったというケースもあります。留職プログラムを続けて利用してくださる企業もあり、そうした会社では、留職経験者の方たちが一緒になって社内を元気にしていくためのコミュニティを作るというような動きも見られますね。

今後の事業展開についてお聞かせください。

松島さん

創業から7年が経ち、企業人がスキルを活かして社会貢献することは、今では珍しくなくなりました。留職と似たようなプログラムを提供する団体も出てきており、私達も留職以外の仕掛けを考えるべき時期を迎えています。いくつか既に取り組み始めていることもあり、そのひとつが、留職の参加者が主に若手社員だったのに対して、企業の幹部社員の方たちにも国内外の社会課題の現場を体感する機会を提供すること。そしてもうひとつが、似たような活動をしている各国のNPOや社会的企業同士をつなぐことで、双方の活動の質を向上し課題の解決を促進することです。このように、私たちがこれまで培ってきたものを活かしながら、社会的にインパクトのある新たな事業を進めていけたらと考えています。もちろん、旗艦事業である留職プログラムは、今後も継続していきます。

東京都国際交流委員会

〒101-0023 東京都千代田区神田松永町17-15 大野ビル3階
TEL:03-5294-6542 FAX:03-5294-6540