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特定非営利活動法人 地球ことば村・世界言語博物館 ~ことばから広がる世界。より深い異文化コミュニケーションを目指して~

ACE事務局長の白木朋子さん(中央)とスタッフのみなさん。支援グッズの本やチョコ、ガーナ国旗を手に。

理事の小幡由紀子さん(左)と、
杏林大学准教授で運営委員の八木橋宏勇先生(右)。

みなさんは世界のことばの大半が今、消滅の危機に瀕していることを知っていますか?
2月のクローズアップでご紹介する特定非営利活動法人「地球ことば村・世界言語博物館」は、ことばとその多様性に関心のある市民と、言語学者や人類学者などの専門家が集まり、2003年に立ち上がった文化運動体です。ことばの多様性が失われ、画一化・単純化していくことを危惧し、地球上の様々なことばについての情報をWeb上で広く公開するほか、ことばについて人びとが交流と討論をする「ことば村フォーラム」や「ことばのサロン」などを定期的に開催しています。今回は、ことばとコミュニケーションについて、「地球ことば村・世界言語博物館」の理事である小幡由紀子さん、運営委員を務める杏林大学外国語学部英語学科准教授の八木橋宏勇先生にお話を伺ってきました。

Q.地球ことば村を設立された経緯について教えてください。

「地球ことば村・世界言語博物館」のリーフレット

A.小幡さん 私は詩や文章を書くことを仕事としていることから、また、登校拒否の子どもたちのカウンセラーをしていた経験があることから、表現としてのことば、コミュニケーションとしてのことばに昔から興味がありました。そんな中、世界にはもう一人しか話者がいなくて明日消えてしまうかもしれない言語があると聞いて、これは大変なことだと思ったんです。鳥やウサギが絶滅しそうだという話は大きな話題となりますが、言葉や文化がなくなるということについては、なかなか知る機会がありませんよね。そこで、文化人類学者の阿部年晴先生(現・理事長)と団体を立ち上げ、まずは色々な世界のことばの情報を知ることから始めましょうということでスタートしたのが、「地球ことば村・世界言語博物館」なのです。

Q.どんな人たちが地球ことば村の会員になっているのですか。

A.小幡さん 言語学者や文化人類学者といった専門家から、単純にことばが大好きという人たちまでいらっしゃいます。イベントでは、世界の小さな言語だけでなく、方言やことわざなど、ことばにまつわる様々なテーマを取り上げ、ことば自体を楽しむということをやっています。お話をしてくださるのは一流の研究者や大学の先生方ですが、一般の人たちに向けてわかりやすく伝えてくださるので、ぜひ多くの方にご参加いただきたいです。

「ことばのサロン」は、毎月、話題を提供するゲストを迎え、
ことばについて親しくわいわいと話し合う集まりです。
目からウロコのことば体験ができるかも。
©地球ことば村

Q.Webサイトで展開されている世界言語博物館について教えてください。

A.小幡さん 世界の言語を網羅した専門的なアーカイブスというのはありますが、私たちは一般の人たちがわかりやすく読めるものを目指して、地球上の様々なことばとその話者たちの生活・文化についての情報をサイトに蓄積しています。特になくなりそうな小さな言語というのは文字がない場合が多く、話者がいなくなるとまったくわからなくなってしまうというのが大きな問題なんです。けれども今、そういった言語の記録を取ろうと、世界中で奥地まで分け入って奮闘している日本の若い研究者たちがたくさんいるので、そういう人たちの研究の成果を地球ことば村のサイトに載せることで応援したいとも思っています。

Q.そもそも世界にはどれぐらい言語があるのですか。

A.八木橋先生 言語学者が数えても3,000~8,000と開きがあり、間を取って5,000ぐらいと言われています。大きな開きが生じる理由は3つあって、まず1つは方言の問題です。私が教えている大学では、中国から来た留学生同士が日本語で話していることがあります。同じ中国語でも地域によって方言があるので、上海や広東から来た学生と北京から来た学生ではうまく話が通じないのです。日本でも東北と九州のことばはかなり違いますよね。このように、同じ言語であっても互いに意思を伝え合うことが困難な方言は別であると考えると、言語の数は増えていきます。2つ目は政治的な区分の問題です。たとえば、オランダ語とベルギーのフラマン語のように、言語的にはほぼ同じだけれど、国が違うために別の言語として数えられる場合があります。3つ目の理由は、アマゾン川流域やニューギニアの奥地などに未知の言語がかなり存在していること。その数をどのぐらいと見積もるかによっても言語の数が変動するのです。

Q.消滅の危機にさらされている言語はいくつぐらいあるのですか。

A.八木橋先生 日本言語学会がサイトに載せている「危機言語Q&A」によれば、話者が6,000人を切っている言語を「少数民族語」といい、その中でも話し手がごくわずかしか残っていない絶滅の危機に瀕している言語の数はおよそ450。さらに21世紀中にその450の言語が消えるだけでなく、地球上の言語の9割が消えてしまう可能性があると見積もる研究者もいます。なぜ言語の数が減っていくのか。一番の理由は話者がいなくなってしまう言語が多いということですが、もうひとつ、市場価値の問題があります。「何語を学んでもいいですよ」と言われたら、小さな言語より、広い地域で使える市場価値の高い言語を選ぶ人が多くなるのは当然ですし、ビジネスが世界規模で進んでいくと共通の言語が必要になるので、言語の数が狭まっていくのは自然な流れなのだと思います。ただ、言語というのは地球の大切な財産です。それがなくなっていくのは忍びないということで、文法的、音声的な記述をして少しでも残そうという動きが出てきているのです。

地球ことば村が発行している世界のあいさつ集「あなたに会えて よかった」。
日本の少年、太郎が夏休みに世界を旅してたくさんの人に出会う物語(英語対訳付き)で、
41言語のあいさつのことばを収録。アイヌ語、沖縄語なども紹介しています。
©地球ことば村

Q.世界の共通の言語というお話が出ましたが、英語の重要性が増していくのでしょうか。

A.八木橋先生 英語が世界の共通語という認識はみなさんお持ちだと思いますが、中国語もぐっと台頭してきています。中国語のネイティブ・スピーカーは中国だけで約13億人、加えてアメリカでも、英語・スペイン語の次に中国語の話者が多くなっていますし、シンガポールやマレーシアなど華僑の人たちが多い地域もたくさんありますよね。これからは、英語と中国語の両方が世界の共通語となってくると思います。

Q.私たちにとって母語もまた大切だと思うのですが、いかがでしょうか。

A.八木橋先生 母語というのは自分にとって一番「楽な」言語ですよね。私は青森の出身ですが、青森にいると自然と津軽弁が楽になってくるんです。方言主流社会ですので、気兼ねなく言いたいことを語り尽くした、伝え切ったという満足感を得られる。そういう自分の基本となるような言語を持つというのは重要なことだと思います。ただ、それだけではコミュニケーションのエリアが狭まり、自分のやりたいこともできないかもしれない。そこで、もうひとつの言語、さらにもうひとつの言語、というふうに身につけていくのがいいと思います。

「多様さを失わないために、地域のことばを大切にしてほしい」と語る小幡さん。

A.小幡さん 先生が日本の津軽弁と標準語、そして英語を話せるように、使える言語が多いにこしたことはないですよね。その中でも、地域語、方言を忘れないでほしいです。多様に言語があるということは、それだけ豊富に人間の知恵があるということだと思うんです。

Q.世界の共通語である英語にも多様性があるようですね。

A.八木橋先生 英語の多様さを3つの同心円で表してみましょう。真ん中の内円圏は英語を母語として使う地域、つまりイギリスやアメリカなど英語の本拠地を示します。その外側の外円圏は、植民地時代に英語が入り込み、現在も社会の中で役割を果たしている地域です。シンガポール、ナイジェリア、インドなどですね。そして、一番外側が拡大円圏と言って、国際的なコミュニケーションのために英語を使う地域で、日本はここに入ります。同じ英語でも地域によって違いがあることはご存知かと思いますが、特に2番目の外円圏の英語は土着の言語の影響を強く受け、本拠地の英語とはかなり違うものになっています。しかし、それはオリジナリティとしてきちんと尊重されるべきものです。本来、言語そのものの価値には優劣などありませんから。地域性を持ったそれぞれの英語があっていい。なんでも画一的にするというのは豊かさの観点から問題があると思います。

Q.英語を学べば異文化交流ができると考える人も多いようですが……。

「言語によって、ことばの活かし方が違う。コミュニケーションの作法も学んでほしい」と語る八木橋先生。

A.八木橋先生 「言語能力がある=コミュニケーションがうまくできる」ということではないんですよね。たとえば、こんなエピソードがあります。ロサンゼルスで交通事故を起こして怪我をした日本人が、駆けつけた救急隊員に「大丈夫ですか?」("Are you all right?")と聞かれて、とりあえず生きているので「はい、大丈夫です」("Yes, I'm all right.")と応じたら、救急車が引き上げてしまったと(笑)*1。聞く側が相手の言いたいことを汲み取る「聞き手責任の言語」である日本語を話す私たちは戸惑ってしまいますが、英語は必要な情報を話者が責任を持ってことばにしなければならない「話し手責任の言語」なんです。このように言語が違えばコミュニケーションの作法や慣習も違い、本当はそこまでカバーして初めて本物のコミュニケーションが成立するのだと思います。

*1 出典:三宅和子(2011)『日本語の対人関係把握と配慮言語行動』ひつじ書房

Q.コミュニケーションには文化的な要素も欠かせないそうですね。

A.八木橋先生 「木曜日に小切手を現金に換えようかと思っていたんだ」("I was thinking of cashing in some checks on Thursday.")「木曜日は感謝祭だよ」("Thursday is Thanks Giving.")という英語のやり取りは、アメリカでは感謝祭=祝日だという文化を知っていないとコミュニケーションとして成立しません。*2本当に血の通った異文化交流をするためには、その言語の単語や文法だけでなく、その言語の話者のコミュニケーションの作法や文化を深く学ぶことが必要だと思います。

*2 出典:ヤムナ・カチュルー、ラリー・E・スミス著(2013)『世界の英語と社会言語学―多様な英語でコミュニケーションする』慶應義塾大学出版会

Q.異文化交流に挑戦してみたいという人にアドバイスをお願いします。

A.八木橋先生 「伝えたい、受け止めたい」という意識があれば、自ずと前方に体が乗り出しますよね。例えことばが通じなくても「わかろうとするから言ってよ」というような雰囲気を作ることが実際のコミュニケーションの場では大切だと思います。それから、やはり言語だけを学ぼうとするのではなく、文化、歴史、宗教など、色々なことに興味を持つことが重要ですよね。異文化コミュニケーションをことばの次元だけで考えるのでなく、それ以外のところを求めるような形で入っていった方がいいのではないかと思います。地球ことば村の活動にもぜひ参加してみてください。こんな文化的な面白味があったのかというような体験ができると思いますよ。

地球ことば村からのお知らせ

©地球ことば村

地球ことば村では、在日ブラジル人の子どもたちのための母語保持教室で使用する副教材を作成中です。日本の童話をポルトガル語と日本語の対訳で載せたカラフルな絵本がもうすぐできあがります!日本語とブラジル語のバイリンガルになれれば、子どもたちにとって大きな財産となります。興味のある方は、地球ことば村にお問い合わせください。春休みには、この教材を使って学生たちが読み聞かせの活動を行う予定です。


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