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特定非営利活動法人パルシック(PARCIC) 「おいしいもの」を通してつながり、お互いが豊かになる関係を築く!

代表理事の井上さん(右)とマルシェ担当の中村さん(左)。おいしいコーヒーは心がなごむ時間を作ってくれます。

代表理事の井上さん(右)とマルシェ担当の中村さん(左)。
おいしいコーヒーは心がなごむ時間を作ってくれます。

4月のクローズアップは、特定非営利活動法人パルシック(PARCIC)のご紹介です。パルシックが誕生したのは2008年の4月。市民の目線で国境を越えた調査活動や政策提言活動を行っているNGO、「アジア太平洋資料センター(PARC)」の"民際協力"部門の分割によって発足しました。国と国との国際協力ではなく、市民と市民、人と人とが助け合う"民際協力"を掲げ、東ティモールやスリランカなどで主にフェアトレードを通じた支援を行っています。今回は、代表理事の井上礼子さんとフェアトレード部マルシェ担当の中村由紀さんに、パルシックの活動やそれを支える思いについて伺ってきました。

Q.パルシックの主な活動について教えてください。

東ティモールの農園にて。©パルシック(PARCIC)

東ティモールの農園にて。
©パルシック(PARCIC)

A.井上さん:私たちは民際協力事業とフェアトレードというふたつの事業をやっています。東ティモールを例にお話ししましょう。東ティモールは2002年に独立を果たしましたが、独立したばかりのこの国から輸出できる唯一のものはコーヒーでした。そこでコーヒーを少しでも良い値段で売ることができるよう、コーヒー生産者の支援を始めたのです。摘み取ったコーヒーの赤い実をそのまま売っていた農民たちに、機材を提供し、加工技術を教えて、質の高いコーヒーを生産できるようにしました。そうして出来たコーヒーを適正な価格で輸入し、おいしいコーヒーを通じて日本の皆さんに東ティモールという国と、その国づくりに苦労をしている人たちのことを知ってもらいたい。パルシックではこのようにして、現地の生産者を支援する民際協力事業とフェアトレードを一体のものとして行っています。

Q.そもそも、なぜ東ティモールの支援を行うようになったのですか。

A.井上さん:私は元々、アジア太平洋資料センターで調査研究や資料の整理などをしていたので、世界のいろいろな国の人たちが東ティモールについて書いた論文や資料に触れる機会がありました。アジアで冷戦時代最後の植民地であったという悲劇ですね。それで、まずはこの事実をほかの人にも知らせたいというところから始まり、それからさまざまな人との出会いがあって活動が広がっていったのです。どこの国でも具体的な「人」の姿が見えてこそ、何かをするモチベーションになるのではないでしょうか。ノーベル平和賞受賞者で前大統領のジョゼ・ラモス=ホルタさんとも長いお付き合いです。東ティモールが独立する前のことですが、ラモス=ホルタさんがNGOの代表として来日した時、なかなか日本の要人に会えないので、うちの事務所で時間をつぶしていたこともありました。

Q.スリランカ、マレーシアでも活動されていますね。

A.井上さん:スリランカでは、長い内戦の影響や2004年の津波の被害で、寡婦になったり、生活の糧に困ったりしている人たちに干物づくりを教えて、適正な価格で首都コロンボの市場などで売る活動を行っています。いわばスリランカ国内でのフェアトレードですね。それから、スリランカ南部で紅茶の有機栽培を支援する活動も行っています。農薬や化学肥料を使わずにお茶を栽培するにはとても労力がかかるのですが、まろやかで飽きのこないおいしい紅茶ができるんです。安心でおいしい紅茶が届くというのは、消費者にとっても大きなプラスですよね。こんなふうに、農民や漁業者といった人たちと私たち日本の市民が出会い、お互いに豊かになるような関係を作りたいと思いながら活動しているんです。さらにマレーシアでも、沿岸漁民の環境保全活動の支援を行っています。

スリランカでの干物づくり©パルシック(PARCIC)
スリランカでの有機紅茶栽培©パルシック(PARCIC)

スリランカで、干物づくり(左)や有機紅茶栽培(右)を行う生産者たち。
©パルシック(PARCIC)

Q.おいしいものを通じた人と人とのつながりを大切にしていらっしゃいますね。

東ティモールのハーブイベントにて。©パルシック(PARCIC)

東ティモールのハーブイベントにて
©パルシック(PARCIC)

A.井上さん:東ティモールでコーヒーの支援をやろうと思った直接のきっかけは、現地で農家の人にコーヒーをふるまわれたことなんです。まず川へ水をくみに行って、薪で火をおこして、豆を煎ってすり鉢ですって、なんだかんだで2時間以上かかってしまって(笑)。でもね、果肉が残ったドロドロのコーヒーだったけれど、とてもおいしかったんです。「これならいける」と思いました。「おいしい」って大事ですよね。そして、おいしいと思うものは、やはり人が心を込めて作っているんです。いま世界は物と物とでグローバルにつながっていますが、すべてがお金に還元されてしまうつながりでしかありません。私たちは「おいしいもの」を通じて人と人とが温かくつながっていく、そんな関係を目指して活動したいと思っています。

Q.東日本大震災の被災地にも活動を広げられましたね。

石巻市北上町にて。わかめの養殖を再開しました。©パルシック(PARCIC)

石巻市北上町にて。
わかめの養殖を再開しました。
©パルシック(PARCIC)

A.井上さん:「国境を越えて人と人とが助け合う」ことをコンセプトにしている私たちにとって、東北で活動するというのは予想外のことでした。実は地震が起きた時、私はスリランカにいたのですが、同じように津波で被災した経験のある現地のみなさんが自分のことのように心配してくれました。それで、私たちにできることがあるなら、やるべきではないかと思ったんです。最初に始めたのは、必要な物資が届いていなかった高齢者の介護施設や5、6世帯が集まっている小規模避難所に「ほしい物はありませんか」と聞いてそれを届ける"御用聞き"。2011年末からは、宮城県石巻市北上町で漁業と農業の復興支援をスタートしました。私たちの得意分野である加工した特産物の生産支援や、地域の伝統文化が途絶えることがないようコミュニティ支援も進めています。

Q.東北でも「人と人との出会い」の力を感じられたそうですね。

同じく北上町にて。野菜作りに励む女性たち。©パルシック(PARCIC)

同じく北上町にて。野菜作りに励む女性たち。
©パルシック(PARCIC)

A.井上さん:津波の被害が大きかった石巻の市街地で、避難所に行かず半壊の自宅で生活している高齢の住民の方たちのために「おちゃっこ」というコミュニティ・カフェを4カ所設けていました。ここに来れば必要な情報が得られ、お茶や食事などでほっとする時間を過ごせるという場所です。そこに学生のボランティアに来てもらったところ、若い人たちが本気で自分たちの話を聞いてくれると、お年寄りの方たちがとても喜んでくださって。そして学生さんたちもそれがうれしくて、本当にみなさん仲よくなったんです。始める前は精神面のケアなど専門的な知識があるわけでもないのに大丈夫かなと心配したのですが、杞憂でしたね。今でもお友達としてお付き合いが続いている方たちがいるそうで、やはりすべての基本は人と人との出会いだと感じています。

Q.それぞれの活動地でさまざまな苦労があるのでしょうね。

A.井上さん:それはもういっぱいあります(笑)。東ティモールを例にあげると、ポルトガル、インドネシアの支配を経て独立して、すべてをゼロから決めなければいけない時に、国づくりを担う人材がなかなかいないということがありました。経済活動をする際にも、帳簿をつける、貯蓄をして機材の減価償却費に回す、ということができる人がいないんです。パルシックの支援地では10年かけて均質なコーヒーを作ることができるようになりましたが、まだマネジメントや輸出業務は日本人スタッフがやっています。また、収穫量の予測が立てられず、昨年は100トンにも!今、どうやって売ろうかと頭を抱えています(笑)。でも、教育を受ける機会がなかった女性が、パルシックで働きながら読み書きや計算を覚え、パソコンで決算書を入力できるまでになり、女性グループのまとめ役としてがんばってくれているというようなこともあります。こうやって人が育っていくのが一番うれしいことですね。

Q.昨年、東京事務所の一角に「淡路町マルシェ」を開かれましたね。

A.井上さん:ささやかですが、コーヒー、紅茶、ハーブティーのほか、交流のあるフェアトレード団体の商品や有機栽培の野菜も置いています。この周辺に住んでいる人たちとの接点が作れたらと思って始めたんです。事務所の入り口に野菜を置いていると開放的な感じがしますでしょう。いろんな人にとって、私たちの活動を知るきっかけになってくれたらうれしいですね。

中村さん:マルシェを始めてから、店先を覗きにいらした方と会話が広がることが多くなりました。「何をやっているところなんですか?」と聞かれて、「NGOなんですよ」と答えると驚かれることもあります。イベントでもそうなんですが、なかなか話だけで活動を理解してもらうのは難しいので、まずは私たちのコーヒーや紅茶を飲んでいただいて、そこから作っている人たちのストーリーを知ってもらうという流れができたらいいなと思います。

事務所にオープンした淡路町マルシェ。
お店には自慢のコーヒー、紅茶、ハーブティーのほか、有機野菜も並んでいます。

事務所にオープンした淡路町マルシェ。
お店には自慢のコーヒー、紅茶、ハーブティーのほか、有機野菜も並んでいます。

Q.何か私たちにも協力できることはありますか。

グローバルフェスタにて。試飲をおすすめしています。©パルシック(PARCIC)

グローバルフェスタにて。
試飲をおすすめしています。
©パルシック(PARCIC)

A.井上さん:どうしても人手が少ないので、大勢の方にボランティアで参加していただきたいと思っています。たとえば、アースデイやグローバルフェスタなどのイベントで、コーヒーの試飲を勧めてもらったり、物を売ったりしていただくのですが、こういうボランティアですと楽しく参加していただけるのではないでしょうか。

中村さん:実は私もパルシックにボランティアから入ったんです。アジアを旅することが多かったのですが、みなさんとても人が良く目が輝いていて、こういう人たちとつながっていきたいというのがありました。大学でフェアトレードを少し学んでいたこともあり、それも絡めて何かできたらいいなと思っていたんです。NGOというと敷居が高く、私も事務所の扉を開けるのにも勇気がいりました。でも今は、入り口がお店なので気軽に来ていただければうれしいですね。

Q.最後に読者へのメッセージをお願いします。

A.井上さん:まずは、おいしいコーヒー、紅茶を試してみてください。それから、ぜひ現地に行ってみてほしいです。パルシックでは、東ティモールやスリランカ、そして東北の被災地へのツアーもいろいろと企画しています。海外のツアーでは、コーヒーや紅茶を栽培している農家の生活ぶりや、暮らしに根差した伝統医療としてのアーユルヴェーダなど、めったにできない体験ができると好評です。生産や加工の現場を見ると、またコーヒー、紅茶が一味違ってきますよ!

生産者たちと出会えるスタディツアー。©パルシック(PARCIC)

生産者たちと出会えるスタディツアー。
©パルシック(PARCIC)

パルシック東京事務所。アジアの香りのする飾りもあり、温かい雰囲気です。

パルシック東京事務所。
アジアの香りのする飾りもあり、
温かい雰囲気です。


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