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公益財団法人 国際理解支援協会 「留学生が先生!」教育プログラム

国際理解支援協会の留学生講師たち。

国際理解支援協会の留学生講師たち。

1月のクローズアップは、公益財団法人 国際理解支援協会です。国際理解支援協会は、文部科学省と東京都教育委員会の後援のもと、小学校・中学校・高等学校に日本で学ぶ現役の留学生を派遣する「留学生が先生!」教育プログラムを実施しています。誕生から24年目という長い歴史を持つこのプログラムは現在2種類あり、児童・生徒にとって貴重な国際理解・交流の機会となる「異文化理解」教育プログラムと小学生が英語や異文化に親しむための「英語活動」教育プログラムが行われています。なお、両プログラムとも、講師料などすべて無償で実施されています。平成23年度には、「異文化理解」教育プログラムに51の国と地域から来た111人の留学生講師が所属し、226校でプログラムが行われました。これは都内の公立中学校・高等学校、それぞれの約2割にあたる実施率だそうです。今回は、さいたま市立大原中学校で実施された"「異文化理解」教育プログラム"を見学させていただきました。

"「異文化理解」教育プログラム"には、留学生講師が自己紹介、母国の人々の暮らしや文化の紹介、講師自身の生き方について話す基本の講義、それに加えて日本の生徒たちも自分たちの伝統・文化を発信し、さらなる交流をはかるタイプの講義があります。今回、さいたま市立大原中学校では、1限目に日本の生徒たちがグループごとに日本の伝統・文化について英語で発表を行い、2限目に留学生が講義を行うというスタイルでプログラムが実施されました。
1限目では、茶道や和菓子、日本古来の遊びといった伝統文化や、天狗や河童といった日本の民間伝承などをグループごとに調べ、英語で留学生に紹介しました。中には、留学生に実際に日本の遊びを体験してもらったり、落語を英語で実演したりと工夫をこらした発表を行うグループも。

さいたま市立大原中学校で行われた"「異文化理解」教育プログラム"の授業風景。留学生がけん玉と福笑いに挑戦しています。  

さいたま市立大原中学校で行われた"「異文化理解」教育プログラム"の授業風景。
留学生がけん玉と福笑いに挑戦しています。

2限目では、留学生講師が日本語で自国の文化や伝統を紹介しました。今回参加したのは、ルーマニア、韓国、中国、スリランカ、アルメニア、フィンランド、トルコからやって来た文化も宗教も多彩な留学生たち。民族衣装を着て講義をしたり、伝統的な舞踊を披露したりと、どの教室でも生徒たちが楽しく異文化を学ぶことができるような授業が展開されていました。

色鮮やかな衣装に、生徒たちから歓声があがります。  

色鮮やかな衣装に、生徒たちから歓声があがります。

生徒たちは、留学生への発表を通して日本の文化を再発見し、また、留学生の講義を聞くことで他の国にも素晴らしい文化があることを理解します。留学生との交流を楽しむ生徒たちの姿を見ていると、「留学生が先生!」教育プログラムに関わる方たちが抱く、このプログラムが子どもたちにとって広く世界へと目を向けるきっかけになってほしいという思いが伝わってくるような気がしました。

授業終了後、感謝を込めて花束贈呈。そして、最後にみんなで記念撮影です。   

授業終了後、感謝を込めて花束贈呈。そして、最後にみんなで記念撮影です。

左から、東京大学で環境教育を学ぶ鄭さん。一橋大学でマーケティングを学ぶテオドラさん。立教大学で観光学を学ぶニルマラさん。

左から、東京大学で環境教育を学ぶ鄭さん。
一橋大学でマーケティングを学ぶテオドラさん。
立教大学で観光学を学ぶニルマラさん。

授業の後、留学生講師の鄭允貞(ジョン・ユンジョン)さん(韓国)、ダトゥ・アンカ・テオドラさん(ルーマニア)、ニルマラ・ラナシンハさん(スリランカ)にお話を伺いました。

どんな思いを持って留学生講師を務められているのですか。

A.テオドラさん 日本に来てから、日本ではルーマニアのことがほとんど知られていないと感じていました。それで、留学生という立場から子どもたちにルーマニアについて伝えたいと思い、留学生講師に応募したんです。ルーマニアという国に興味を持ってもらうことから始めて、さらに他の国や海外へ留学するということに対しての視野を広げることを目標にしています。
A.ニルマラさん スリランカも日本人に知られていないので、子どもたちにスリランカのことを伝えたいと思っています。特にスリランカは発展途上国なので、貧富の差が大きいです。そういった格差を知ることができるような写真を見せ、「世界にはこういう人もいるのです。ですから、みなさんは日本での人生を大切にして、自分に与えられた機会を活かしてください」と話しています。

生徒に韓国の民族衣装を着せる鄭さん。

生徒に韓国の民族衣装を着せる鄭さん。

A.鄭さん 私の講義をきっかけにして、日本の生徒たちが韓国人を親しく感じたり、韓国に行ってみたいと思ったりするような授業を目指しています。国際交流というのは、お互いに対する興味や好奇心から始まるのではないかと思うんです。民族衣装を着て講義をしたり、生徒にも着てもらったり。とにかく「韓国の人と一緒に楽しんで、おもしろかった」と思ってくれたら嬉しいですね。

講義をするとき、どのような工夫をされていますか。

民族舞踏を披露するニルマラさん。

民族舞踊を披露するニルマラさん。

A.ニルマラさん 私は、スリランカの伝統的なダンスを踊って見せます。そうすると生徒たちはとても喜びますね。また、自分の家の庭の写真を「これはどこでしょうか?」と見せるようにもしています。ほとんどの生徒たちは「森!」「ジャングル!」と答えます。スリランカでは果物や野菜が豊富で、自宅の庭にそれらを植えて育てているのですが、日本の子どもたちにとっては驚きのようです。こうして子どものころにダンスや写真などを通してスリランカを体験すると、ずっと心に残るのではないかと思っています。

ルーマニアの民族衣装で講義をするテオドラさん。

ルーマニアの民族衣装で
講義をするテオドラさん。

A.テオドラさん 子どもたちを驚かせることはとても大事ですね。驚くと「よかったな、おもしろかったな」と感情的に残ります。私も民族衣装を着ますが、それは驚いてもらうためです。そして、本やインターネットで見つけられる情報ではなく、できるだけ私という生身の人間が生きて感じてきたことを伝えて、それから「あなたならどうする?どう思う?」と考えさせるよう工夫しています。

日本の子どもたちに伝えたいと強く思っていることはありますか。

A.テオドラさん 文化も習慣もルーマニアと日本では違うことばかりですが、違うからおもしろいのだと思います。みんなが同じだったら、世の中はつまらないものになりますよ。異文化というのは違うということ。そこを重視して授業を進めています。
A.鄭さん 最近の日本の子どもたちは外国に興味がなく、留学にもあまり行きたがらないですよね。そこで私が、「私は日本語を学ぶことで日本に来ることができて、こうやってみんなに韓国の文化を紹介できることがうれしいんだよ」とか、「英語ができれば英語を使って外国の友だちがたくさんできるよ」とか、刺激を与えるような話をすることも大事だと思っています。

アルメニアからの留学生講師

アルメニアからの留学生講師

フィンランドからの留学生講師

フィンランドからの留学生講師

生徒たちからどのような質問を受けることが多いですか。

ルーマニアの国旗について説明するテオドラさん

ルーマニアの国旗について
説明するテオドラさん

A.テオドラさん ルーマニア人に対してというよりも、外国人への興味から出たと思われる質問をされることが多いですね。「彼氏はいますか?」「マンガは好きですか?」といった純粋な質問です。私はアクセサリーをたくさんつけているので、それを見て子どもたちは「結婚しているんですか?」と聞いてきます。でも、私がしているのは結婚指輪ではありません。その理由やルーマニア人の好きなアクセサリー、色など、ひとつの質問が文化についての説明へとつながっていく。これこそ、異文化交流ですよね。「なぜ日本に来たのですか?」という質問も必ず聞かれます。私が「日本が好きだから来たんだよ」と言うと、すごく喜びます。「日本に来る前、侍や忍者がいると思っていましたか?」と聞かれることも多いです。日本が海外からどう見られているかということを知らないようですね。

後日生徒たちから手紙が届くそうですが、特にうれしかったものはありますか。

A.鄭さん どの生徒にも少なからず、マスメディアやおじいさんおばあさん世代から影響を受けてできあがった韓国に対する先入観や固定観念があります。ですから、「鄭先生を見て、いままで持っていた韓国のイメージが変わりました」という手紙をもらうとうれしいです。日本の生徒たちのためにも、韓国のためにもなったかな、と思います。
A.テオドラさん 一番うれしいのは、「ルーマニアに行きたくなりました」「留学したくなりました」という手紙です。このプログラムの効果があったなと感じます。ルーマニアでなくてもいいんです。韓国でもアメリカでもいいですから、少なくとも人生で一度は海外を経験すべきですね。

中国からの留学生講師

中国からの留学生講師

トルコからの留学生講師

トルコからの留学生講師

日本で異文化理解や多文化共生を阻んでいると思うことがあったら教えてください。

A.鄭さん 日本人はよく「日本ならありえない」と言います。でも、「ありえないこと」って世の中にないんですよね。いろいろな文化があって何でもありえるんです。「日本ならありえない」という言葉自体が、異文化理解の壁になっていると感じます。
A.テオドラさん 日本では、みんなが日本語を話し読み、会うのも日本人ばかりです。井の中の蛙状態ですね。そして、自分たちは日本について何でも知っていると思い込んでいます。でも、私たちが日本について質問をしてみると、先生ですら知らないということも多いです。外国人と出会わない限り、海外を知ることも自分の国を知ることもできません。私たち留学生を通して外国について、また日本について勉強してほしい、そしてお互いを尊敬し合う気持ちを持ってほしいと思っています。

テオドラさんを囲んで。

テオドラさんを囲んで。

閉塞感の強い日本の子どもたち、そして大人たちにメッセージをお願いします。

A.ニルマラさん 私の夢はアーティストになることです。勉強を優先させた時期もありましたが、日本に来てからダンスと勉強を両立することができるようになりました。伝統舞踊はイベントで踊られることが多いので、私の研究分野であるスリランカの観光にも活かすことができます。誰にでも力があって、やればできるんです。夢を持ち続け、叶える努力をしてほしいというメッセージを伝えたいですね。
A.テオドラさん 私も夢の大切さを伝えたいです。ルーマニアから日本に留学するのは簡単なことではありません。物価の差がとても大きいのです。でも、私は「日本に行きたい」という夢を持って、夢のために頑張りました。そして奨学金の選考に通って日本へ来ることができたのです。夢がないと何も始まらないですし、自分の力をもっと信じてほしい。「日本の方が安全で便利で住みやすいから」といって海外に行きたがらない日本人が多いですが、辛いことがあるからこそ成長するのだと思います。とにかく一人で世界へ出て行ってみて、と言いたいです。
A.鄭さん 日本もいい国だけれど、ほかの国にも行って、直接いろんなことを感じてみた方がいいと私も思います。日本が一番と考えてしまうと、変わろうという気持ちがなくなってしまいますよね。たくさんの日本人が海外に出て行って、その経験を日本に持ち帰ってくれば、もっとクリエイティブな考えや新しい発想がばんばん出てきて、それがこれからの日本の力になるのではないでしょうか。

鄭さんを囲んで。

鄭さんを囲んで。


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