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動く→動かす もう一歩、貧困のない世界へ

2月のクローズアップは、「動く→動かす」のご紹介です。2009年3月に設立されたこのネットワーク組織は、世界の貧困問題の解決を目指す国連の「ミレニアム開発目標」の達成に向け、政策提言活動とキャンペーン活動を展開しています。ユニークな名称には、「一人ひとりが"動く"ことで、世界を"動かす"」という意志が込められているそうです。事務局長の稲場雅紀さんとSTAND UPコーディネーターの笠原由晶さんにお話を伺ってきました。

稲場雅紀さん(右)と笠原由晶さん(左)

「動く→動かす」の設立経緯をお聞かせください。


A. 2000年の国連ミレニアム・サミットで、2015年までに世界の貧困を半減することなどを約束する「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」がとりまとめられました。このMDGsの達成と貧困のない世界の実現を目指して2005年に発足したのが、GCAP(Global Call to Action Against Poverty)という国際的な市民ネットワークです。GCAPは世界131カ国に広がっていますが、その日本版として2009年に設立されたのが「動く→動かす」です。現在、59の国際協力NGOが参加するネットワークとなっています。

「MDGs」について、もう少し詳しく教えてください。


A. 「極度の貧困と飢餓の撲滅」や「普遍的初等教育の達成」など、2015年までに達成するべき8つの目標が具体的数値とともに掲げられています。これらは各国に負担が割り当てられるといった強制的なものではなく、国際的に約束した努力目標という性格のものですが、MDGsが作られたことにより、貧困問題の解決は先進国と途上国の双方にとって果たすべき"責任"であることが明確に示されたのです。
金融危機による世界同時不況などがあって、MDGsの達成は困難との見方が広がっています。しかし、これまでMDGsの達成に向けて世界中で取り組んできたからこそ、大きな前進があったことは確かです。90年代末のアフリカは、貧困や内戦、HIV/エイズなどによって本当に悲惨な状況でしたが、今では経済成長が望める状況まで改善されています。南アフリカでサッカーのワールドカップが開催されたことは、その象徴といえるでしょう。

提供:動く→動かす

「動く→動かす」の活動内容についてお聞かせください。


提供:動く→動かす

A. MDGsの達成に向けた政策提言活動と、MDGsをより広く知ってもらうためのキャンペーン活動を車の両輪と位置づけて実施しています。2015年までにMDGsを達成させるためには、ODAを基本とする資金の確保とその有効活用が不可欠です。これを実現させるには、ODAの使途を決定する政治家や官僚などのキーマンに戦略的に働きかける政策提言活動(アドボカシー)を行っていく必要があります。こうした専門的なアドボカシーに加え、「世界の貧困を終わらせよう」という強い意志を市民社会が示せば、より大きな推進力を得ることができます。そこで、「STAND UP TAKE ACTION」というキャンペーン活動を行い、広く参加を募っているのです。

「STAND UP TAKE ACTION」とは、どのようなキャンペーンですか?


提供:動く→動かす

A. 「STAND UP TAKE ACTION」(スタンド・アップ)は、「世界の貧困をなくしたい」という意志を"立ち上がる(STAND UP)"ことで示そうというグローバル・アクションです。毎年、 「世界貧困デー」である*10月17日前後に世界各地で行われます。第1回目のスタンド・アップが行われた2006年には、全世界で2354万2614人が立ち上がり、その参加者数でギネス記録を作って注目を集め、貧困のない世界を求める強い声を世界のリーダーたちに届けました。そして5年目を迎えた2010年には、世界で74カ国、日本では47都道府県にアクションの輪が広がりました。
*2010年は国連MDGsレビューサミット直前の9月17日~19日に開催。

スタンド・アップには誰でも参加できるのですか?


A. 世界の貧困をなくすために自分ができることを宣誓して立ち上がる、というシンプルなアクションですので、どなたでも参加可能です。国際機関やNGOなどの援助関係者はもちろん、家族や友人と集まってアクションを起こしてくれる人たちもいれば、ランチタイムに行う会社や、授業や文化祭の一環として行う学校などもあります。アクションに参加する人の数が増えれば、より強く世界のリーダーたちの背中を押すことになり、それが各国の政策や支援のやり方を変えていくことにつながるのです。2011年も10月にスタンド・アップを行う予定ですので、ホームページなどで情報をチェックしてみてください。

貧困問題の解決のために、一人ひとりがどんなことをすればいいのでしょうか。


A. 大切なのは、MDGsの達成や貧困問題に関心を持っていると示すことだと思います。ボランティア活動への参加でも、ちょっとした寄付でも、ブログで自分の思いを伝えるといったことでもいいでしょう。新聞に投稿したり、議員に手紙やメールを書いてみたり、世界の貧困を取り上げたテレビ番組を見たら、その感想をテレビ局に送るという方法もあります。日常的にも何か貧困の解消につながる行動を続け、その集大成として年1回のスタンド・アップに参加すれば、その人のメッセージパワーは倍加すると思います。

提供:動く→動かす

日本でなかなかMDGsの存在が浸透していかない現状をどう見ていますか?


A. ある調査によると、日本でのMDGsの認知率は3.5%程度です。認知率が低いのは、多くの人がアフリカなどの貧困問題は遠い存在だと思っているからでしょう。最近の日本経済は劣化しており、他国に援助している余裕などない、という風潮も拡大していますね。日本に住む私たちの生活は、もはや途上国との関係なしには成り立ちません。しかし、その認識を持っている人は少ないように思います。

現場で活動するNGOから
MDGs を学ぶイベント

メディア関係者を招いて
開催された緊急シンポジウム
提供:動く→動かす

MDGs達成の重要性を、どのように理解すればいいのでしょうか。


A. 世界には、ちょっとした下痢で子どもが死んでしまう国や、妊産婦の死亡率が先進国の2000倍以上という地域が存在します。私たちには、このような巨大な格差をなくし、どの国に生まれた人も保健や教育といったサービスをきちんと受けられる世界をつくる責任があるのではないでしょうか。また、今や世界はひとつの経済圏となっています。特定の国や地域が貧困に苦しむ状態を放置しておけば、いずれ世界全体が立ち行かなくなるでしょう。グローバルに繁栄していくためには、すべての国がある程度の購買力を持つ市場となることが必要です。MDGs達成への取り組みは 、このための"投資"であるという捉え方もできます。MDGsによって途上国の社会基盤が整備されれば、やがてそれらの国々が経済発展を遂げ、市場として機能するようになるからです。
実は、世界には、貧困のない世界を実現するために必要なお金も食料も技術も蓄積されています。問題は不均等な配分にあり、今足りないのは、これらの使い道を決める世界のリーダーたちの意志です。だからこそ、一人ひとりが声を上げ彼らの背中を押すことが大切なのです。

提供:動く→動かす

今後の課題や目標などについて教えてください。


A.まずは、日本でのMDGsの認知度を上げることです。そのためには、草の根のアクションとして定着してきた「STAND UP TAKE ACTION」を、より大々的に広げていきたいと考えています。スポーツイベントやコンサートと連携したり、企業や"セレブ"と呼ばれる人たちを巻き込んで、もっと注目を集められるようにしていきたいですね。
そして、"MDGs後"の貧困をなくすためのイニシアチブについて考えることも私たちの重要な役割であり、今後の活動テーマになります。2015年にMDGsの達成期限を迎えても、世界の貧困問題解決への取り組みが終わるわけではありません。15年間の成果を維持し、さらに発展させるためには、今から準備していくことが必要だと思っています。

日本最大級の野外音楽イベントFuji Rock Festival 2010 にて
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最後に、「れすぱす」の読者にメッセージをお願いします。


A. MDGsを「世界の貧困を半減するという約束」と説明すると、あまりにも漠然としていてピンとこないと思われる方もいるかもしれません。そんな時は、MDGsが掲げる目標をひとつひとつ読んでみてください。8つの目標を読めば、世界が今どのような問題を抱えているかがわかるはずです。十分に食べられずに亡くなっていく人たちや学校へ行けない子どもたち、そして妊娠・出産によって命を落とす女性たちがいるということ……。このような現実を知った上で、世界の貧困を解決する道筋はあり、それがMDGsなのだと理解していただければと思います。世界から見れば、日本の影響力はみなさんが思う以上に大きく、果たせる役割もたくさんあるのです。一緒にアクションを起こしましょう!

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