生物多様性への理解を広げ、地球の未来を明るくしたい コンサベーション・インターナショナルの日比保史氏にインタビュー
 環境問題の話題で、「生物多様性」という言葉を耳にするようになりました。国際的には、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で「生物の多様性に関する条約」が採択されています。コンサベーション・インターナショナル(以下CI)は、このテーマに長年取り組んでいる国際的NGO。「生物多様性」とは何か、CIの日本プログラム代表である日比保史氏に、インタビューしました。
 Q 生物多様性とは、生き物が多様にいるさま、といった意味ですね?
 A
文字通り、この地球上には動物も植物も含めて実に様々なものたちが生きています。「生き物が多様にいるさま」は、生物多様性という考え方の根幹です。しかし、これを「生き物だけの問題」と考えるのは、正しくありません。たとえば日本は食料自給率が低く、食糧を海外に依存しています。農作物自体も生物多様性の一部ですし、農作物の栽培に必要な水も森や土壌があってこそ使えます。すべてはその土地の自然の恵みであり、日本は食糧の輸入を通じて非常に多くの海外の自然の恵みに依存しています。生物多様性とは、まさにこの自然の恵みを生み出している状態のこと。生物の命の豊かさを大きく一括りにできる概念とも言えます。その世界中のあちこちの生物多様性が、いま非常な速度で失われています。日本人が食糧を海外に頼っている事実も、地球規模の環境問題に直結しているわけです。レジ袋の持参もアイドリングストップも本当に大切。でも、地球やその未来について生物多様性という視野で知り、日本と地球とのつながりを考えるということも、これからはとても重要なのです。
 Q CIは生物多様性の保全に取り組んでいるのですね?
 A
1987年にアメリカで設立されたCIは、生物多様性の保全に取り組むNGOです。国の数にすると40か国以上の地域の生態系を保全するために活動しています。活動において私たちが重要視しているのは、保全したい土地の人々の理解と参加。危機に直面している自然や生態系の多くは、中南米やアフリカ、アジアなどの開発途上国にあり、貧困問題と表裏一体です。守りたいからといって立ち入り禁止にし、地元住民の生活手段を奪っては、環境保全の成功にはなりません。破壊的な土地利用や資源利用は止めるべきですが、地元住民の生活や文化も大事。彼らと話し合って計画し、進め、フォローもする。私たちは長期的な成果を目指してアプローチしています。地球が長い年月をかけて育んできた自然遺産としての生物多様性を保全し、人間社会と自然が調和して生きる道を具体的に示すこと、そのための啓発。それがCIのミッションです。
 Q とくに危機に瀕している地域を「ホットスポット」と呼ぶそうですね?
 A
CIでは、緊急かつ戦略的に保全すべき地域として世界34カ所を「生物多様性ホットスポット」として特定しています。ホットスポットは地球の地表面積のわずか2.3%でありながら、最も絶滅が危惧されている哺乳類、鳥類、両生類種の75%が生息し、全ての維管束植物種※の50%と陸上脊椎動物種の42%がこれら34カ所にのみ生息しています。先に述べたようにほとんどが開発途上国にありますが、実は日本列島もホットスポットの一つです。生まれ育った私たち、とくに東京に住む人にはピンとこないかもしれませんが、日本は世界的に希少な生物が多い本当に自然豊かな国なのです。ホットスポットの基準は、その地域にしか生息しない固有維管束植物種が1500種類以上あり、かつ原生の生態系が70%以上失われていること。そう思って足元の日本を見直すのも、生物多様性理解への一歩となるでしょう。

※維管束植物種
水や養分を植物全体にいきわたらせるパイプ状の組織、維管束を持つ植物。シダ植物と種子植物を指し、コケ類や藻類を除くほとんどの植物が維管束植物種である。



hotspotsmaps2005
提供:コンサベーション・インターナショナル www.conservation.or.jp


生物多様性が失われつつある、沖縄本島のヤンバルの森林
Yasu Hibi/CI Japan
 Q 日本プログラム代表としての日比さんのお仕事とは?
 A
日本はホットスポットでもあるわけですが、やはり先進国として途上国での生物多様性保全と貧困の削減に貢献していくことが大きな役割です。日本プログラムのスタッフは、そのために国の関係省庁や企業に働きかけて協力を求めたり、意見交換したりしながらCIの途上国でのプログラムへの支援をつくりだしています。また、広く一般のみなさんに生物多様性について知ってもらうための啓発活動も大切です。私は2月21日に行われる「国際化市民フォーラムin Tokyo」と同時開催の国連シンポジウムにも、「生物多様性―気候変動、食料危機、貧困問題との関わり」というテーマのパネリストとして参加します。環境への興味・関心が広まっていることはいいことですが、最近は先走った活動や誤解されたままの知識も見受けられます。たとえばCO2削減や緑化のために「木を植えよう」という運動がありますが、その土地の生態系にふさわしい樹木を、地元住民との関係性に配慮して、長期的視野を持って植えているのかというと、疑問を持たざるを得ないケースもあるようです。善意が正しく生かされるように、専門家を擁するCIとしてできることはたくさんあります。いま環境省が進める、企業の環境への取り組みのガイドライン作りにも参画しています。生物多様性とは、環境問題を最もグローバルに理解できるキーワードの一つ。多くの人に知ってもらいたいです。知ることから行動が生まれ、その一人ひとりの行動こそが地球の未来を明るくするのです。

日比 保史(ひび やすし)

(株)野村総合研究所、国連開発計画(UNDP)勤務を経て、2003年4月よりコンサベーション・インターナショナル日本プログラム代表。日本におけるグローバルな生物多様性保全の推進に取り組む。企業との連携、気候変動問題を専門とし、環境省企業生物多様性ガイドライン検討会委員など環境問題に関する多くの委員のほか、上智大学地球環境研究所、法政大学大学院国際環境協力プログラムなどで非常勤講師も務める。共著に『Hotspots Revisited』、『生態学からみた保護地域と多様性保全』など。


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