グローバル化する母子手帳!特定非営利活動法人HANDS
1月のクローズアップは「特定非営利活動法人HANDS」です。2000年1月、文京区本郷に設立されたHANDSは、地域に根ざした保健医療の仕組みづくりと人づくりを目指して世界各地で活動しています。今回は「世界に広がる母子手帳」をメインテーマに、中村安秀代表理事にお話を伺ってきました。
医学博士でもある中村 安秀氏
HANDSの主な活動内容を教えていただけますか。
事務局長の横田雅史さんと
広報担当の篠原都さん
ブラジル、ケニア、インドネシア、スーダンなど、さまざまな国で保健医療システムの開発と実践を行っています。私たちの願いは、途上国の人たちが主役となり自らの健康を守っていけるような社会を実現することです。そのためには、日本人の医師や看護師が途上国へ行って直接治療やワクチンの接種に携わるのではなく、現地のお医者さんや看護師さんが十分に力を発揮できるようなお手伝いをすることが大切だと考えています。技術とノウハウを伝え、人を育て、よりよい保健医療が行えるようなシステムをつくる。その方が長い目で見て、より多くの人たちに役立つはずです。システムがきちんと確立され、それを支える人材がいれば、私たちが現地で活動しなくなっても、自分たちの力で保健医療を続けていってくれるでしょう。
母子手帳の普及に強い関心を持ったきっかけは何ですか。
日本の病院で小児科医として勤務していた頃から、母子手帳の大切さは理解していました。しかし、実際にその重要性を肌で感じたのは、「母子手帳がない国」へ行ったときです。
1986年から88年にかけて、私はJICA(国際協力機構)のプロジェクトで、母子保健の専門家としてインドネシアに滞在していました。電気も水道もない村で子どもたちの診察や治療を行っていたのです。ある日、2歳の脳性マヒの子供がお母さんといっしょに私の元を訪れました。けれど「妊娠中の様子はどうでしたか?」と私が質問しても、お母さんは答えることができません。何も記録がないので、妊娠中の経過も出産時のお子さんの体重さえもわからないのです。このとき初めて、日本で当たり前のように使っていた母子手帳がないことの不便さを痛感しました。「妊娠」、「出産」、「子どもの成長」を一冊にまとめて記録する母子手帳があれば、お子さんのケアもお母さんのケアももっとスムーズに進められるはずだと思ったのです。
母子手帳はどのように日本から海外へと広まっていったのですか。
海外から来日した医療従事者が日本の母子手帳にほれ込み、自分の国で広めようとしたケースが多いですね。中には日本人が海外に持って行った母子手帳を目にした人が、その良さを認識し普及に取り組んだケースもありますよ。例えば日本を訪れたタイ人医師の呼びかけがきっかけとなり、1985年にタイ版の母子手帳が誕生しました。同じように韓国、インドネシア、ベトナム、カンボジア、パレスチナ、アメリカのユタ州、ドミニカ共和国など数多くの国で、母子手帳がその国のニーズに合わせた形で広まっています。
私たちが担っているのは、それをサポート・推進する役割です。具体的には、日本で研修会を行ったり、母子手帳に関する国際的なネットワークを築くための国際会議の開催に協力しています。既に母子手帳を使用している国、これから導入しようとしている国、さまざまなところからやってきた人たちが互いに学び合う場があることが大切なのです。
2008年11月には多くの方々の協力を得て、東京で「第6回母子手帳国際会議」を開催しました。16カ国から約300名の方々が集まって、パネルディスカッションや各国での母子手帳の普及状況を報告し合うなど、有意義な時間が持てました。
世界の国々の母子手帳
国ごとにオリジナルの母子手帳があるのですか。

インドネシアの地域ごとに異なる母子手帳

その通りです。日本の母子手帳とは異なるユニークな個性があっておもしろいですよ。例えばタイの母子手帳はカラーのイラストが豊富で、いかにも子育てが楽しくなりそうです。離乳食のページにパパイヤなどが書かれているのも南国らしいですね。また、インドネシアの母子手帳の表紙には、ジャワ東部やカリマンタンなど、地域ごとに異なる写真が使われています。多民族が共生するインドネシアの特徴が出ていますよね。
それぞれの国の工夫を凝らした母子手帳を見ると私は楽しくてたまりません。自称「母子手帳マニア」と言っているのですが、私だけではなく、世界中にも同じように母子手帳に熱い関心を寄せている医療従事者たちがいます。こういった人たちのネットワークを通じて、様々な地域に母子手帳が広まっていっているのです。
HANDSでは各国の母子手帳を集めており、事前にご連絡いただければ閲覧していただけますし、一部は貸し出しも行っています。これは、日本の市民の方々にHANDSが行っている国際協力を知ってもらうための活動のひとつにもなっています。海外の母子手帳を中学や高校の家庭科の授業で紹介していただいたことや、大学生の方が卒論のテーマに選んでくださったこともあるんですよ。

海外の母子手帳をヒントに作られた日本の母子手帳もあるそうですね。
ええ、海外のバラエティ豊かな母子手帳にヒントを得て、日本の母子手帳を見直したケースもあります。例えば日本の母子手帳はふつう6歳児までを対象としていますが、愛知県小牧市は15歳まで、茨城県常陸大宮市は20歳までを対象としており、両方とも名称を「親子健康手帳」としています。親から子へのメッセージを書き込む欄を設けたり、父親の育児参加を促すような記述があったりと、より有用な母子手帳のあり方が模索されています。情報をふんだんに盛り込んだ従来の日本のものより、イラストも多くなり、ユーザーフレンドリーな母子手帳となっています。日本発の母子手帳が海外で進化し、また日本へ戻ってくる。これこそ本物の「国際交流」だと思います。

「パレスチナの母子手帳」

「インドネシアの母子手帳」
イラストが多くカラフルで分かりやすい海外の母子手帳の中面
今後の母子手帳関連のイベントのご予定はありますか。
2010年3月1〜2日にケニアのナイロビで「母子手帳キックオフ・ワークショップ」を催します。第1回野口英世アフリカ賞を授与されたミリアム・ウェレ博士と意気投合して開催を決めたもので、アフリカ各地から参加者が集まる予定です。もちろん日本からの参加者も歓迎しますよ!遠方ではありますが(笑)。
その他にも研修会やシンポジウム、広報活動などを開催していきますので、詳しい日程については当団体のホームページをご覧いただければと思います。
HANDSエントランス正面
今回の取材にご協力をいただいたHANDSの活動を支える皆さん
<ルビ入りクローズアップ>のボタンを押しますと自動的にルビが入ったPDFデータがダウンロードされますので、デスクトップなどに保存してください。
なお『Acrobat Reader』が入っていない方は、こちらをクリックしてください。
top
東京都国際交流委員会 バックナンバーEnglish